インタビュイー:株式会社ジェクトワン 代表取締役 大河 幹男様2009年に渋谷で開業された株式会社ジェクトワンは、「想像を超える『場』をつくり、あたりまえにする。」をミッションに掲げ、「地域や場所ありき」で建物をつくる総合不動産会社である。一般的な不動産デベロッパーはマンション、オフィスビルなどの単一のカテゴリーに特化するが、同社は住居、宿泊施設、商業施設、店舗、老人ホームなどマルチカテゴリーを扱うのが強みである。この強みは「地域や場所ありき」で建物を考える企業方針から生まれ、同社の事業は主に「総合不動産開発事業」・「リノベーション事業」・「空き家事業」の三本柱で構成されている。なかでも空き家事業では、近年の日本の社会問題の「空き家」に着目し、2016年から空き家解決サービス「アキサポ」を立ち上げた。年々増加し、すでに全国で約900万戸にも達する空き家問題を解決する希望の光として近年注目されている、株式会社ジェクトワンの代表取締役・大河幹男代表に、前半では同社創業の背景や空き家解決サービス「アキサポ」、空き家事業のリスクについてお話を伺った。「地域に最適な価値を創造する」―ジェクトワン創業の原点まず、大河代表に創業の背景について伺った。大河代表:株式会社ジェクトワンは、今年で創業17年目を迎えました。私は前職でマンションデベロッパーとしてキャリアを積んでおり、当時はマンション開発を中心とした業務に携わっていました。デベロッパーの世界では、一般的にマンション、オフィスビル、ホテルなど単一のカテゴリーに特化しており、私自身も長らく「マンション一筋」でやってきました。自分が仕入れた土地の上に最新のマンションが建てられ、大勢の人が入居して夜になると、たくさんの窓に明かりがともる。本当に充足感に満たされ、やりがいを感じるものでした。しかし次第に、ある違和感が芽生えてきました。マンション開発は、収益性が高く、事業としての再現性もあるため、企業にとっては効率的であり、社員の教育も単一事業なので比較的しやすい側面があります。しかしその一方で、開発が“収益優先”に偏ることで、本来その土地にふさわしくない場所にもマンションを建ててしまう、というケースが多く見られました。たとえば、日当たりの悪い敷地や、高速道路に面した環境であっても、利益が出るならマンションを建てる、という判断が当たり前になっていたのです。私はそうした在り方に違和感を覚え、「その土地に本当にふさわしいものをつくりたい」と強く思うようになりました。マンションに限らず、商業施設や物流拠点、ホテルなど、その土地が持つポテンシャルに合わせた最適な開発を目指す――それが、ジェクトワンの出発点であり、「地域や場所ありき」で建物を考える企業方針やマルチカテゴリーという強みにつながっています。これまで当社が手がけてきた「地域や場所ありき」の取り組みの一例として、築115年を超える京都の京町家を再生したプロジェクトをご紹介します。空き家となっていたこの京町家を、伝統的な意匠やこだわりをそのまま活かしつつ、一日一組限定の高級宿泊施設「ANJIN Gion Shirakawa」へとリノベーションしました。このプロジェクトは、地域課題である「空き家対策」と、京都の街並みを象徴する京町家の「保存・再生」という二つの社会的意義を兼ね備えた、当社ならではの取り組みです。単なる宿泊施設の開発にとどまらず、地域の歴史と文化を体感できる場を提供することで、宿泊者に本質的な地域体験を届けています。京町家の魅力と価値を未来へ継承しながら、地域全体のブランド力と文化的資産の向上にも貢献することを目指したプロジェクトです。「この土地にとって最適な活用は何か?」という視点で開発に取り組む。株式会社ジェクトワンは、そんな本質的な価値づくりを大切にしています。「空き家」を”AKIYA”に変えていく、「アキサポ」という挑戦株式会社ジェクトワンは2016年に「総合不動産開発事業」・「リノベーション事業」に続く、第三の事業として空き家解決サービス「アキサポ」を開始した。「アキサポ」は、空き家を有効活用する「活用」と、買い取る「買取」の2つの主要サービスを展開している。活用では同社が空き家を借り受け、所有者のコストゼロ*でリノベーション後に転貸し、手放さず収益化を可能にする。一方、買取では立地や状態を問わず柔軟に対応し、スピーディーに売却を成立させることで、所有者の多様なニーズに応えている。*建物の状況等によっては、一部費用が発生する場合がございます。大河代表:2016年に売上が60億円程度の規模になり、「総合不動産開発事業」・「リノベーション事業」に続く次の一手として、新事業に挑戦しようと考えました。そこで始めたのが、現在の「アキサポ」にも繋がる空き家事業です。空き家は案件ごとに特性や課題が異なるので、周辺地域を回って綿密なヒアリングを行いながら、その土地に合う住宅、オフィス、店舗、倉庫など最適な形態を企画・提案しています。私たちが提案する“AKIYA”は、暮らす人と訪れる人が集い、交流し、多様な魅力を生み、地域を活性化していく『場』です。現在、全国の空き家は900万戸を超え、今後さらに増加するとも言われています。空き家は社会全体にとって非常に大きな問題であり、空き家領域の難しさから大手のデベロッパーがやりたがらず未開拓のブルーオーシャン。だからこそ、私たちがリスクをとってでも取り組むべき分野だと考えています。この事業は、これまで手掛けてきた不動産事業の中でも特に難しい部類に入りますが、「空き家といえばジェクトワン」。そんな空き家業界のリーディングカンパニーのポジションを目指して、今も開拓を進めています。今年に入ってからは、日本郵便様と業務提携し、空き家管理に関する相互紹介の体制もスタートしました。郵便局は地域の空き家の情報を日々の配達の中で把握しているので、「あの家は物干し竿がずっと同じ位置にある」「ポストがいっぱい」など、現場レベルの気づきがあります。まさに日本のインフラともいえる存在と組むことで、私たちもより実態に即した対応が可能になります。こうした連携を通じて、空き家事業に対する関心の高まりや社会的な期待も日々感じています。今後も、空き家を取り巻く課題解決の最前線で、新たなモデルをつくっていければと考えています。リスクの先にある未来―不動産の新領域大河代表は、空き家事業には他社が参入しづらい、とあるリスクが存在するという。大河代表:空き家事業というのは、私たちがこれまで手掛けてきた開発事業やリノベーション事業とはまったく性質が異なり、非常に難易度の高い領域です。例えば、開発事業であれば、5億円の見積もりを立てれば、実際の工事もおおよそその金額で収まります。リノベーション事業も同様で、700万円と試算すれば、工事費もほぼその範囲におさまるのが通例です。しかし、空き家となると事情がまったく違います。たとえば1,000万円で済むと見込んでいた工事が、解体してみたら1,500万円かかる、ということが頻繁に起こるんです。なぜかというと、内部を実際に解体してみないと構造や配管などのインフラの状態がわからず、後から思わぬ追加工事が発生するケースが多いためです。見積もり時点では予測しきれないリスクが多く、費用のブレが大きくなります。だからこそ、多くの不動産会社がこの分野に手を出したがらない。リスクが定量化できず、採算が読みづらいからです。しかし、私は逆に「だからこそやる意味がある」と感じました。他の会社がやりたがらないからこそ、そこに挑戦し、ビジネスモデルとして成立させることができれば、空き家の分野でリーディングカンパニーになれると確信しました。前編では、株式会社ジェクトワン創業の背景や空き家解決サービス「アキサポ」、空き家事業のリスクについてお話を伺いました。後編では、業界構造・行政の問題点や今後起業したい方へのメッセージを伺います。