インタビュイー:株式会社カーツメディアワークス 代表取締役 村上 崇様株式会社カーツメディアワークスは、PRコンサルティングと海外向けプレスリリース配信サービス「Global PR Wire」を主軸に、企業や団体の広報・マーケティング活動を支援している。創業以来、国内にとどまらず海外企業に対しても幅広い支援を行ってきた。そんな同社を率いるのが、代表取締役の村上崇氏だ。高等専門学校(高専)でプログラミングを学んだ後、テレビ業界で経験を積み、2002年に同社を創業。以来、国内外でPR事業を展開してきたが、その道のりは決して平坦ではなかった。クーデターともいえる社内の分裂、コロナ禍による大幅赤字、そして経営基盤を固めるための資本業務提携。数々の試練の中で、村上氏が一貫して貫いてきたのは、単に「変化に対応する」のではなく、自ら「市場を創る」という姿勢である。後編では、コロナ禍での事業改革や資本業務提携の裏側、そしてPR業界に新たな市場を切り拓こうとする現在の構想について、じっくりと話を聞いた。コロナ禍で浮き彫りになった事業の弱点とその突破口コロナ禍は多くの企業に試練を与えたが、村上代表にとってもそれは例外ではなかった。長年黒字を続けてきた同社も、突如として4,000万円の赤字に転落。だが、その逆境の中で新たな成長の芽を発見する。その時、彼は危機をどう受け止め、どんな道筋を描いたのか。村上代表:コロナ禍の期は、4,000万円ほどの赤字になったんです。それまで一度も赤字は出したことがなかったので、大きなショックでした。コロナ融資も含めて1億円の資金調達はできましたが、同時に「事業の弱さ」を強烈に突きつけられました。何もかもが中途半端だ、と。社会全体がリモートワーク中心になり、私たちも新製品発表や決算説明などをオンライン上で行う「オンライン記者会見」サービスなどで赤字を補おうとしましたが、その裏で「Global PR Wire」が伸びていたんです。コロナ明けの頃には契約社数が500社を超え、やがて800社に達しました。定期的に配信してくれるお客様も増え、確かな手応えを感じました。結局、私たちの主力はPR。だからこそ「Global PR Wire」と「PRコンサルティング」、この二つに事業を集中させると決めました。PRといっても単なるプレスリリース配信に限らず、オウンドメディアの広報支援やSNS運営まで含めた戦略的な広報の取り組みです。当時は2,000万〜3,000万円規模の案件もありましたが、やはり一過性で終わることが多く、全体の底上げには限界がありました。そんな中、あるブランドから年間5,000万円クラスの継続的な発注をいただけたことで、数字は一気に改善。コロナ禍で4,000万円の赤字を出し、「本当に立て直せるのか」と不安が広がった翌年には、すでに黒字へ転換。わずか一年で大きな赤字を取り戻すスピード感は、まさにV字回復と呼べるものでした。ただ、その時点ではまだ“大口顧客頼み”の体制。これを脱却するため、デジタルマーケティングも含め、マーケティング全般をPRと掛け合わせて提供する方向へ舵を切りました。そんなタイミングで、タナベコンサルティンググループから資本業務提携のお話をいただいたのです。資本業務提携で磨かれた経営の基礎と本質IPOを目指す意欲はあったものの、事業の脆さは自覚していた村上代表。そんな中で出会ったのが、70年近く経営を続ける老舗コンサルティング企業・タナベコンサルティンググループ。提携は、彼に「経営とは何か」を根本から問い直す機会を与えてくれたという。村上代表:IPOへの意欲は強くありましたが、その一方で、自分たちの事業の弱点も痛感していました。人を育てても辞めてしまう、事業はすぐに模倣される―そんなことを延々と繰り返すのかと、危機感が募っていたんです。そんな時に声をかけていただいたのが、70年近く経営を続けるタナベコンサルティンググループでした。私は以前から、関西系の経営者の松下幸之助さんや京セラ創業者・稲盛和夫さん、日本電産の永守さんなどの書籍を好んで読んでおり、タナベコンサルティンググループの創業者・田辺昇一さんの名前は存じ上げていました。お声がかかったときにはじめて田辺昇一氏の書籍を読んで改めて、あの厳しい時代を生きぬいてきた重みのある言葉に大変感銘を受けました。タナベコンサルティンググループの資本業務提携を受けた理由のひとつも、そこにありました。私は経営をちゃんと学んだことがなく、すべて現場で実務を積み重ねてきました。独学ゆえに「これが正しいのか」という確証を持てずにいたんです。ですが、タナベコンサルティンググループに入ることによって、四半期ごとの黒字化、予算の回し方といった経営の基本を、理論と実践の両面から学べています。将来的には、タナベコンサルティンググループの中核を担う企業を目指していきたいと思っています。「新しいPRコンサルティング市場」を形にする挑戦資本業務提携後、経営の管理手法や数字への意識は大きく変化。PR業界の構造変化、AIの台頭、価格戦略の見直し…村上代表の視線は、常に未来に向かっている。村上代表:タナベコンサルティンググループと一緒になって変わったことの一つが、「週次でPLを見る」ことです。3ヶ月先、半年先の業績を先行管理するようになり、四半期ごとのグループ経営会議でも報告をしています。ただ、この2年間は私たちがグループ内で一番成績が悪く、本当に悔しい思いをしました。だからこそ、必死に改善を重ね、経営者としての成長を実感できました。よく「数字の悩みがなくなれば、社長の悩みの8割は解決する」と言われますが、それは本当だと思います。PR会社はどうしても広報業務の下請けや御用聞きのように見られがちです。しかし、私たちは“コンサルティング” でなければならないと思っています。そのためには個々のスキルやナレッジを高め、組織の力に変えていかなければいけません。経営やマーケティングの視点から広報を捉えることで、より高い付加価値を提供し、単価を上げていく。そのためにAIの活用も進めています。AIを用いた調査や分析によってスピードと精度を高め、成果を見える化しながら提案の質を引き上げていくのです。さらに、毎月の固定フィーではなく「成果が出たら報酬をいただく」成功報酬型の新しいPRモデルにも挑戦します。企業にとって負担が少なく、成果への期待が共有できる仕組みだと考えています。これらを組み合わせ、テクノロジーと成果連動を取り入れた、新しいPRコンサルティングの形をこの数年で形にしていきたい。そしてそれを国内外に広げていくつもりです。私が思い描く市場の姿は大きく2つあります。ひとつは専門性を高めた高単価のコンサルティング領域。もうひとつはAIの普及によってコモディティ化が進む低価格領域です。中途半端な価格帯は、いずれ淘汰されていくでしょう。PRの価値は、広告のようにお金を払って枠を買うこととは違い、メディアが第三者の立場で評価して記事化すること自体に価値がある点にあります。たとえば日経新聞にインタビューが掲載された、ニューヨーク・タイムズに取り上げられた、というのは広告枠を買ったのとはまったく違う。そこにこそPRの普遍的な価値があります。だからこそ、極端に安いか、高価格に振り切るか―PR業界はその二極化に向かうと思います。やがて誰かがその流れを加速させるクサビを打ち込み、業界全体が一気に変わる。変化に対応できないPR会社は淘汰されていく。その中で生き残り、食い込んでいくこと。それが、私の目指す未来です。インタビュー後記今回の取材で強く感じられたのは、村上代表の逆境を推進力へと変える強さとしなやかさだ。事業の急ブレーキや市場環境の激変も、彼にとっては変革を実行するきっかけであり、その判断の一つひとつに経営者としての胆力が感じられる。さらに、「PR会社」というカテゴリーを超え、経営やマーケティングの領域まで踏み込みながら顧客の成長を支援するという発想は、既存の業界構造を再編させ得る力を秘めている。彼が描く「新しいPRコンサルティング市場」は、これからどのように形を成していくのか。その動きは、PR・マーケティング業界のみならず、経営の未来を考える上でも大きな示唆を与えてくれるだろう。