インタビュイー:株式会社SAZO 代表取締役CEO ギル・マロ様株式会社SAZOは、AIを活用した越境ECサービス「SAZO」を展開する、名古屋工業大学発のスタートアップである。商品ページのURLを入力するだけで、AIが商品価格・国際送料・関税の算出までを行い、購入前に支払総額を提示する。さらに、自社で倉庫を保有し、検品・保証までを一気通貫で担っている。現在は日本、韓国、アメリカの3か国でサービスを展開しており、累計資金調達額は2026年8月時点で39.7億円に到達している。代表取締役CEOを務めるギル・マロ氏は、幼少期からプログラミングや数学に親しみ、高校時代にはアルゴリズム研究に没頭してきた。国費留学生として来日し、2020年に名古屋工業大学へ進学。日本と韓国を行き来しながら海外通販を利用するなかで、国やサービスが違っても共通する海外通販の不便さに気づいた。AIの進化によってその課題を解決できる可能性を見いだし、留学か起業かという選択の末、2023年10月に株式会社SAZOを創業した。後編では、株式会社SAZO 代表取締役CEO ギル・マロ氏に、スケールアップの過程で直面した採用の壁や、多言語・多国籍・多拠点・多職種の組織を束ねる組織運営、越境ECの「新しい当たり前」をつくる今後の展望について、お話を伺った。順調な立ち上がりの先にあった、採用という壁創業初期から手応えを得て、早くもスケールアップに入ったSAZO。事業の成長に開発体制が追いつかず、経験豊富なシニアエンジニアの採用が大きな課題となった。ギル代表:創業当初にまず確かめたのは、越境ECサービス「SAZO」が、利用者の抱える不便を本当に解消できるかという点でした。次に、その価値が一部の利用者にとどまらず、より多くの人に受け入れられ、継続的に利用されるだけの需要があるかを検証しました。課題を解決できるサービスなのか、そして事業として成長できる市場があるのか、この2つを順番に確かめていったのです。ありがたいことに、当社は創業初期から一定の成果を得ることができました。何度もピボットを重ねながら事業モデルを固めていくスタートアップも多いなか、当社の場合は、創業時に立てた仮説と実際の市場ニーズが大きくずれることなく、事業を伸ばしていくことができました。その結果、早い段階でスケールアップの局面に入ることができたのです。ただ、本当の難しさはスケールアップの局面に入ってからでした。事業が急速に伸びる一方で、社内にはスケールアップを経験したメンバーが一人もいなかったのです。特に大きかったのが、開発体制の問題です。当時はAIを活用した開発もまだ発展途上で、コードの多くを自分たちの手で書く必要がありました。加えて、私を含めてメンバーは全員若く、大規模なサービスを支えるバックエンド設計の経験も十分ではありませんでした。事業の成長にシステム設計が追いつかず、その場では動いていても、規模が大きくなると設計やコードをつくり直さなければならない。そうして技術的負債が少しずつ積み上がっていきました。こうした技術的な課題を解決するために、経験豊富なシニアエンジニアの採用が急務となりました。しかし、ここで新たな壁に直面します。当時の当社は20代のメンバーが中心で、会社としての実績もまだ十分ではありませんでした。大手企業などで経験を積んだシニアエンジニアの方に、そうした環境へ飛び込んでもらうのは、想像以上に難しかったのです。実際、長い時間をかけてお声がけしたものの、最終的に入社に至らなかったこともあります。それでも候補者を探し続け、対話を重ねました。採用には確率論的な側面があり、会社と候補者のタイミングが合う瞬間をつかむことが重要だと感じています。そして最終的に、力のあるシニアエンジニアに加わっていただくことができ、自分たちだけでは解決できなかった技術的な課題にも改善の道筋が見えるようになりました。事業をスケールさせるには、技術や資金だけでなく、その成長を支えられる人材を採用できるかどうかが重要です。創業初期に採用の壁に直面し、それを乗り越えた経験は、その後の組織づくりを考えるうえでも大きな学びになりました。多言語・多国籍・多拠点・多職種を束ねる、SAZOの組織運営言語も国籍も拠点も、担う仕事も異なるSAZOのメンバー。多様な組織を動かすために、目標管理と情報共有を軸とした自律的な組織づくりを進めているギル代表:当社の組織運営には、いくつかの難しさがあります。まず、多言語・多国籍であることです。韓国語を話すメンバーと日本語を話すメンバーがおおよそ半々で、日本、韓国、中国、アメリカなど、さまざまな国籍のメンバーが在籍しています。さらに、拠点も東京、名古屋、福岡、韓国、アメリカに分かれています。加えて、当社はソフトウェアだけを手がける会社ではありません。自社で倉庫を構え、検品や梱包といった物流業務まで担っています。そのため、開発現場と物流現場で、仕事の進め方や判断基準も大きく異なります。多言語、多国籍、多拠点に、職種の違いまで重なる組織を一つにまとめていくことは、簡単ではありません。もちろん、ミッション・ビジョン・バリューは明確にしていますが、言葉を掲げるだけで、多様なメンバーが同じ方向に動けるわけではありません。そこで組織運営の軸にしているのが、MBOによる目標管理です。まず各メンバーが目指すべき目標を明確にし、その達成方法については、それぞれが自ら考え、判断できるようにしています。そのためには、判断に必要な情報へ誰もがアクセスできる環境も欠かせません。そこで、社内の知識をデータベースに集約し、財務情報や事業データ、社内Wikiなどを、各拠点・各職種のメンバーが必要に応じて確認できるようにしています。以前であれば、必要なデータを取り出すためにSQLなどのデータベース言語が必要でしたが、現在はAIを活用し、自然言語で質問するだけで必要な情報にたどり着ける環境も整えています。目標を明確にする。その達成方法は現場に任せる。そして、判断に必要な情報は可能な限り開放する。この3つを揃えることで、拠点や職種が違っても、それぞれのメンバーが自律的に動ける組織を目指しています。一方で、すべての仕事を同じ方法で管理しているわけではありません。自ら施策を考えて進める業務であれば、成果を中心に目標を設定します。一方、物流などの定型業務では、効率や正確性といった指標を重視します。仕事の性質に合わせて目標や評価の方法を変えながら、組織全体として同じ方向を向ける状態をつくることが重要だと考えています。採用についても、組織づくりの考え方は一貫しています。私が大切にしているのは、「尊敬できる人と働く」ということです。創業初期のメンバーには学生時代から一緒に取り組んできた仲間も多く、その後に加わったメンバーも含め、一人ひとりを大切にしながら組織を築いてきました。また、組織運営や経営判断では、できる限り勘だけに頼らず、再現性を意識しています。社内で新しい施策を試す際には、まず仮説を明確にし、検証する要素を絞る。結果が出たときに、「なぜそうなったのか」を説明できる状態にしておくことを重視しています。多様なメンバーに細かな指示を出して動かすのではなく、目標と情報を共有し、それぞれが自ら判断できる状態をつくる。そのうえで、一つひとつの施策から学びを蓄積し、改善を続けていく。それが、当社が目指している組織運営の形です。世界のどこからでも、どこへでも。買い物の「当たり前」を書き換える構想世界のどこにいても、欲しいものを簡単に買い、売ることができる。SAZOが目指す「新しい当たり前」と、越境EC市場で描く今後の展望について伺った。ギル代表:私たちが目指しているのは、世界中のどこにいても、どんな商品でも簡単に買えることが当たり前になる世界です。例えば5年後、海外に欲しい商品があっても、特別な手間をかけることなく手に入れられる。「なぜ以前は、海外の商品を買うことがあれほど難しかったのだろう」と振り返ってもらえるような状態をつくりたいのです。いまは特別に見えることを、少しずつ「当たり前」の側へ移していくことに力を注いでいきたいと考えています。特に私たちが向き合いたいのは、「好きなものを買う」という領域です。生活必需品であれば、どの国にいても多くのものは手に入ります。しかし、本当に好きなものや趣味に関わるものは、特定の国でしか手に入らないことも少なくありません。ヨーロッパのワインでも、韓国のアイドルグッズでも、日本のアニメ関連商品でもいい。自分にとって大切なものであれば、SAZOを通じて、世界中のどこにあっても買えて、世界中の人に向けて売ることもできる。世界のどこからどこへでも、ものが自由に行き交う世界をつくることが、私たちの目指す姿です。もちろん、簡単な挑戦ではありません。技術が進歩するほど、私たちが解かなければならない課題も複雑になっていくと感じています。かつては、優れたソフトウェアをつくること自体が大きな競争力になる時代もありました。しかし現在は、ソフトウェアだけでは差別化が難しく、優れた仕組みもすぐに模倣されます。これから本当に向き合わなければならないのは、物理的なオペレーションに加え、各国の規制や商習慣、さらには地政学的な条件まで含めた複雑な課題です。ソフトウェアだけでは解けない領域にまで踏み込み、それらを一つずつ解決していく。そこに、SAZOが挑戦する意味があると考えています。そのうえで、越境EC市場でトップに立つことと、越境ECという市場そのものをさらに大きくすることを目標に掲げています。SAZOを通じて、海外の商品を買うことも、世界へ商品を売ることも特別ではない。そんな新しい「当たり前」を、世界につくっていきたいと思っています。編集後記今回は、株式会社SAZO 代表取締役CEO ギル・マロ氏にお話を伺いました。印象的だったのが、AIによる金額算出だけでなく、自社で倉庫を持ち、検品・配送・保証まで担っている点です。越境ECは、画面上の利便性だけでは完結しません。実際に商品が届くまでの流れまで自ら設計することで、購入時の不確実性そのものを減らしている。課題の表面だけでなく、その根本まで踏み込んで仕組みをつくる姿勢から、新しい当たり前を生み出すために必要な実行力を学ばせていただきました。ギル・マロ/2000年8月11日韓国生まれ。小学生の頃から開発が好きで、高校時代には全国物理オリンピアード 銅賞、全国科学オリンピアード 銀賞(韓国)、e-icon World Programming Contest 準優勝(韓国代表)など多くの実績を上げる。日韓共同理工系国費留学生として2020年から名古屋工業大学に留学。兵役中に自身の越境売買経験から、越境EC(電子商取引)の不便さを解消するビジネスを構想。複数のビジネスコンテストで経済産業大臣賞を始めとする数々の賞を受賞。その後ビジネスプランを固め、2023年10月に株式会社SAZOを創業、代表取締役に就任。【会社概要】会社名株式会社SAZO設立年2023年代表取締役CEOギル・マロ事業内容越境ECプラットフォーム「SAZO」の開発・運営所在地愛知県名古屋市昭和区鶴舞1-2-32