インタビュイー:株式会社島田電機製作所 代表取締役社長 島田 正孝様1933年に創業し、92年の歴史を重ねてきた株式会社島田電機製作所。東京・八王子市を拠点に、セミオーダー/フルオーダーでエレベーター用の押しボタンや到着灯など“意匠器具”を専門に製造している。同社は経営理念に「“らしさ”輝く世界をつくる」を掲げ、「モノづくり」「組織づくり」「ファンづくり」の三本柱で事業を推進する。とりわけ組織づくりでは、終業後に社員が無料でお酒を楽しめる社内バー企画「ボタンちゃん Bar」や、社員表彰の賞金額を巨大サイコロの出目で決める「サイコロ金」など、遊び心と今っぽさを取り入れた仕掛けが象徴的だ。ファンづくりの面では、2022年にSNSで話題となり、当選確率1%の「日本一予約が取れない工場見学」と紹介された「工場のぞきみ見学会」が代表例。さらに、“押す”をテーマにした体験型アミューズメント施設「OSEBA(オセバ)」を2024年にオープンしている。5代目社長・島田正孝氏の独自の経営哲学のもと、ニッチな町工場は、毎月2,000人以上が来場する人気企業へと生まれ変わった。知名度不足に悩む中小企業にとって、同社は“選ばれ続ける会社”のロールモデルになりうる存在だ。前編では、独創的な発想で従業員と顧客を魅了しファンに変えていく株式会社島田電機製作所の代表取締役社長・島田 正孝氏に上海での学びや島田社長が考えるブランディングの実践と本質についてを伺った。“らしさ”が会社を動かす—92年企業・島田電機製作所のカルチャー変革はじめに、株式会社島田電機製作所の事業内容についてお話を伺った。島田社長:当社は1933年創業で、今年で92年になります。私は5代目社長です。私たちが専門にしてきたのは、エレベーター用意匠器具です。エレベーターホールに付く押しボタンや表示灯を、セミオーダー/フルオーダーで一つひとつ仕立てています。お取引先は大手のエレベーターメーカーさんで、オーダーメイドのエレベーター用意匠器具での国内シェアはおよそ6〜7割。高層ビルや商業・複合施設など、著名な建物のエレベーターの多くに、当社の製品が使われています。ただ、私たちは単なるモノづくり企業ではありません。「モノづくり」「組織づくり」「ファンづくり」という三つの軸を大切にして、事業を進めています。モノづくり以上に、組織づくりやファンづくりに関心を持っていただき、そこから当社を知っていただくケースも増えているんです。オーダーメイドの仕事というのは、単に依頼通りに作ればいいわけではありません。お客様の要望を理解し、期待に応える、さらに期待を超える製品に仕上げる必要があります。そのためには、一人ひとりの主体性が重要になります。だからこそ、社内は自由な風土づくりを徹底し、自分で考えて動き出せる人が力を発揮できる組織にしてきました。ここが当社の大きな特徴だと考えています。各社員の主体性を最大化するために、自由な風土づくりを目指している島田社長。しかし、島田社長の入社当時は全く異なる雰囲気だったそうだ。島田社長:私は24歳で島田電機製作所に入社しました。当時の社内は、いわゆる昔ながらの町工場の空気が色濃く、年功序列や職人気質が前面に出ていました。正直に言えば、「自分が働きたい会社」とは言い切れなかったのです。学生時代の私はパンクロックが好きで、ボロボロの古着、金髪。そんな“らしさ”を持っていましたが、社会に出るとそれが許されない現実に直面しました。なぜ自分の個性を生かせないのか、強く問い続けるなかで、「一人ひとりの”らしさ”こそ最大の強みだ」という確信に至りました。人の良さや持ち味を活かして働けることが、本人にとっても会社にとっても一番の価値になる。これが、今の組織づくりの出発点です。上海での学びと経営改革の原点2007年、中国・上海へ渡った島田社長。そこには、今後の経営改革につながる大きな学びがあったという。島田社長:転機は2007年。私は通訳とともに、海外シェア獲得のために、中国・上海に渡りました。目的は「安く作る」ではなく、「中国で良いものを作り、中国で売上を立てる」。出稼ぎのつもりで、中国という巨大市場に真正面から挑む覚悟で行きました。普通なら、最初に営業へ行く相手はエレベーターメーカーでしょう。しかし私は真逆の道を選びました。現在の市場状況を知るために、同業の部品メーカーに飛び込みました。競合他社の現場であれば、いま中国で何が求められているのかが最もリアルに見えると考えたのです。当然、最初は警戒されましたが、当社の日本での実績や製品を一つひとつ丁寧に見せていきました。品質やデザインで勝負する姿勢は現地でも評価され、合弁企業設立の選択肢もありました。しかし、中国企業に強みだけ吸収されてしまう危険を感じ、合弁の道は最終的に選びませんでした。2008年には法人化し、1,500㎡もの広大な工場スペースを借りました。とはいえ、初めは設備が一切なかったので、そこに作業員を一人、また一人と迎え、外注で作った部品を持ち込み、社内で組み立てを始めました。受注が少しずつ増えると、ようやく「じゃあ一台設備を買おう」と投資ができる。まさにコツコツと積み上げていくしかなかったのです。三年ほどで、現地スタッフは40人規模まで育ちました。言葉も文化も違う中で、完全ローカルの組織を運営していくのは、毎日が学びの連続でした。この中国での経験で、私が何より大きく学んだのは「言葉の大事さ」です。あるとき、私は「見せられる工場にしたい。きれいな会社にしたい」と現地スタッフに話しました。すると、組立をしていた若い女性がこう聞いたのです。「社長、きれいって何ですか?」。彼女は土の家に暮らしていました。彼女からすれば、会社は十分にきれいな場所。私が当たり前と思っていた「きれい」という感覚は、彼女にはまったく違う意味で映っていたのです。この瞬間、私ははっとさせられました。文化や生活環境が違えば、同じ言葉も全く違う意味に受け取られる。同じ日本人同士であっても「わかったつもり」で話しているのに、認識がズレることはある。だからこそ、言葉を磨き、価値観を共有し、相手に届く形で伝えることがどれだけ重要かを痛感しました。私はこの気づきを、日本に戻ってからの経営改革の核にしています。多くの経営者が悩まされている課題の本質は「認識のズレ」にある。経営者は「言ったつもり」、社員は「聞いたつもり」。けれど、真意は届いていない。その溝を埋めるのは、言葉の精度であり、伝え方の工夫であり、価値観のすり合わせです。中国での経験がなければ、この本質には気づけなかったでしょう。「インナーからアウターへー中小企業が取り組むべき本物のブランディング上海で「言葉の重要性」を痛感した島田社長。帰国後に社長に就任し、その学びを土台に社内改革に踏み出した。島田社長:私が社長に就任したのは2013年、世田谷の工場を八王子に移転したタイミングでした。上海での経験を経て戻り、その中で学んだ「言葉の重要性」を強く意識し、会社をどう変えていくべきか、を真剣に考え始めました。経営者自身が「会社は何のためにあるのか」「働くとは何か」を自分の言葉で語れなければ、社員もついてこない。そこから社内改革をスタートさせました。私にとって「働く」とは、人を喜ばせることです。誰かの課題を解決し、期待を超えることでその人を喜ばせる。この事業の本質を一言で表したのが「ファンづくり」です。しかし、「ファンづくり」に取り組むうえで、中小企業には大きな課題があります。それは「認知度の低さ」です。当社も70年、80年と続いてきましたが、下請けとしてエレベーターの部品を納めるだけでは、社会に名前を知ってもらうことはありません。これは多くの中小企業に共通する課題でもあります。だからこそ、私は「中小企業こそ広報活動によるブランディングに取り組むべきだ」と考えるようになりました。中小企業こそブランディングが必要と語る島田社長。次に、ブランディングの実践と本質について伺った。島田社長:多くの中小企業は、ブランディングといえばまず「アウターブランディング(=社外広報活動)」を取り組みがちです。しかし本当の土台は「インナーブランディング(=社内に向けた価値観の言語化と共有)」にあります。経営者自身が「会社は何のために存在するのか」を言葉にし、それを社員と共有する。社員が「自分たちはこういう存在だ」と共通の認識を持つ。その共有した目線に沿ってアウターブランディングをすることで、社会的認知度が高まり、企業価値が向上する。内側の言葉が磨かれないままいきなり外へ発信しても、それは一過性の宣伝にすぎず、本質的なブランドにはなり得ないのです。「経営者が自分の会社を一言で語ることができる」これが一番重要だと思います。また、アウターブランディングは、社会のニーズと結びついて初めて力を持ちます。例えば、「子どもがエレベーターのボタンを押したがるので工場見学をしてみたい」というある保護者様からの声をきっかけに、「1000のボタン」という目玉展示を作り工場見学を始めたことで、メディアに取り上げられ大きな反響を呼びました。これは「子供はボタンを押したがる」という社会のニーズに合致したからこその結果でした。そこから学んだことが、「世の中のメディアが取り上げる話題には社会的ニーズがある」ということ。そこで、メディアをパラメーターにして、つまり、メディアに取り上げられることを目安として自分たちのできることを考えていくブランディング方針をとりました。そして、社員表彰の賞金額を巨大サイコロの出目で決める「サイコロ金」や「ラブレター採用」といったユニークな制度を導入しました。このような制度をメディアに取り上げていただき、当社の社会的認知度は高まりました。その結果、当社の工場見学は当時「日本で一番予約が取れない工場見学」とまで呼ばれるようになりました。日本人は昔から「ブランド=高級」というイメージをもっており、中小企業は取り組みにくいと感じるかもしれません。しかし、ブランドとは「本物」であることです。本物とは、社会のニーズに真摯に応え、課題解決に貢献し続ける姿勢です。外部から決められるものではなく、自ら「こう見られたい」という意志を掲げ、その思いを社内で共有し、外へ発信し続ける。その積み重ねが「この分野ならこの会社だ」という共有認識を社内・社外に生み、やがて「選ばれる会社」としてのブランドを形づくります。前編では、上海での学びや島田社長が考えるブランディングの実践と本質についてお話を伺いました。後編では、ブランディング成功の秘訣やエンゲージメントの重要性、今後の展望についてお話を伺います。