インタビュイー:株式会社スタートアップクラス 代表取締役社長 藤岡清高様スタートアップへの転職がこの2年で約5割増加するなど、日本でもキャリアの選択肢としてスタートアップが注目され始めている。そんな時代の中で、「次の100年を照らす、100社を創出する。」をビジョンに掲げ、スタートアップ企業と人材をつなぐ採用プラットフォームを展開しているのが株式会社スタートアップクラスである。同社は前身であるスタートアップ専門の人材紹介会社「アマテラス」として創業し、現在はプラットフォーム事業へと進化。起業家の挑戦を支え、挑戦する意思によって集まる新しいキャリアの“階級”をつくることを目指している。同社を率いるのが代表取締役社長の藤岡清高氏だ。藤岡氏は銀行勤務を経て、慶應大学ビジネススクールでMBAを自費取得。その後ドリームインキュベータでの経験を通じて、スタートアップの採用課題に向き合い、アマテラスを創業した。その原点にあるのは、起業家と関わって仕事をしたい、そして起業家を支えたいという想いである。前編では、藤岡氏のキャリアの原点やアマテラス創業期について、お話を伺った。本編では、株式会社スタートアップクラス 代表取締役社長 藤岡清高氏に、プラットフォーム開発の裏側や社名変更の背景、今後の展望について、お話を伺っていく。シリコンバレーで見た未来──全財産を投じたプラットフォームへの挑戦アマテラスを創業した当初から、藤岡氏の中には人材紹介の先にある構想があった。それはスタートアップと人材が直接出会えるプラットフォームをつくることであった。藤岡代表:アマテラスを立ち上げた当初から、私はいずれプラットフォームビジネスに進化させたいと考えていました。スタートアップ企業と人材をつなぐ仕組みを、より大きな形で実現できないかと思っていたのです。そこでまず行ったのが、業界構造や海外事例を含めた徹底的なリサーチでした。その中で出会ったのが、シリコンバレーのスタートアップ採用プラットフォーム「AngelList(現Wellfound)」です。シリコンバレーでは、AngelListを通じて企業と人材が直接つながり、スタートアップで働きたい人材が自然と集まる仕組みがすでに成立していました。一方、日本ではまだ採用は人材エージェントを介するのが一般的で、企業と人材が直接出会えるプラットフォームは存在していませんでした。「この仕組みを日本でもつくれないだろうか」と考えた私は、実際にシリコンバレーへ行き、AngelListのオフィスを訪ねました。事前にアポイントメントを取れていたわけではありません。メールを送っても返信はなく、それでも現地へ行けば何か分かるのではないかと思ったのです。初日はオフィスに入ることすらできませんでした。ビルにもフロアにも厳重なセキュリティがあり、受付で事情を説明しても相手にしてもらえなかったからです。それでも諦めきれず、翌日もう一度足を運びました。すると前日に私を見かけていたスタッフが覚えていてくれて、中へ案内してくれたのです。ここで待てば幹部が来ると耳打ちしてくれました。するとサイトで見て覚えていたCOOが出社してきたので、勇気を出して声をかけました。俺は忙しいから少しだけだぞ、と不機嫌に言ったそのCOOは1時間もそこで話してくれました。私は日本のスタートアップの採用の現状や課題を伝え、なぜAngellistはシリコンバレーでスタートアップ向けのプラットフォームを立ち上げ、どうやって成長させてきたのかなど聞くことができました。そのとき改めて感じたのは、シリコンバレーが日本よりはるか先に進んでいるということでした。スタートアップと人材がフェアに出会える仕組みが、すでにエコシステムとして成立していたのです。<シリコンバレーAngellist訪問時に対応してくれたCOO Kevin氏と。>藤岡代表:帰国後、私はすぐに日本版のプラットフォーム開発に取り組みました。こうして誕生したのが「AmaterasOnline」です。スタートアップと人材が直接出会える採用プラットフォームとして開発を進めました。しかし、プラットフォームを立ち上げることは簡単ではありませんでした。システム開発には多額の資金が必要で、最終的には自身の全財産と借金で合わせて、数千万円単位の資金を投じることになります。今振り返っても、あの決断には勇気を要しました。脆い橋のうえを歩んでいる感覚で、全てを失い路頭に迷う夢を何度もみて夜中にガバッと起きることが増えました。この感覚は一生忘れることはないでしょう。それでも、作れば必ずリードポジションを取れると信じていました。ただ、実際にはシステムを作っただけでは利用者は増えません。利用者の声を聞きながら改善を繰り返し、サービスを磨き続けました。その間は赤字が続きましたが、人材紹介事業を並行して続けながら何とか踏みとどまりました。そして4年目、ついにプラットフォーム事業は黒字化します。あと一年赤字が続いていたら、事業は続けられなかったかもしれません。振り返ると、あの時期は最も苦しい時間でした。しかし同時に、スタートアップ採用のインフラをつくるという挑戦が本格的に動き始めた時間でもありました。<2015年 アマテラスの採用プラットフォームのローンチは各種メディアに掲載された。>アマテラスからスタートアップクラスへ──社名変更による成長戦略プラットフォーム事業が軌道に乗り、アマテラスは成長を続けていた。しかし採用プラットフォーム市場は急速に競争が激化していく。生き残りのために、藤岡氏は社名変更という大胆な決断を下した。藤岡代表:プラットフォームが黒字化した後、私たちは人材紹介のエージェント事業からプラットフォーム事業へと完全に舵を切りました。お客様との対話や市場の状況を見ても、スタートアップの人材市場はまだ小さいものの、プラットフォームならば確実に成長していくという確信があったからです。その直後に訪れたのがコロナ禍でした。当初は厳しい状況になるのではないかと思いましたが、結果として私たちにとっては追い風になりました。対面を前提とする人材紹介ビジネスが大きな制約を受ける一方で、私たちのサービスは最初からオンライン上で企業と人材が出会える仕組みだったからです。面談やスカウトもオンラインで完結できるため、コロナ禍でも利用は伸び、トラクションは大きく高まりました。社会全体でもDXや非対面サービスへの移行が進み、プラットフォームモデルの優位性が明確になった瞬間だったと思います。しかし同時に、採用プラットフォーム市場は急速にパワーゲーム化していきました。広告費を投下して登録者数を増やし、規模で勝負する世界です。プラットフォームビジネスでは、業界で一位か二位にならなければ生き残れないと言われます。小さくニッチに続けていくという選択肢は取りにくい環境になっていました。そこで私たちは何度も議論を重ね、生き残るための資金調達が必要だと判断したのです。その中で見えてきたのが、スタートアップ領域でのカテゴリーキラーになるという戦略でした。総合型のプラットフォームになることは現実的ではありません。しかし、スタートアップの中でも特定の領域に深く入り込み、その分野で一番になることはできる。もともと私たちは、社会を変える挑戦に本気で向き合うスタートアップを支援したいと考えていましたし、その領域ではすでに一定の手応えもありました。問題は、その強みをどうやって市場に認知させるかでした。そこで浮上したのが、マーケティングとブランディングの見直しです。認知を一気に広げるためには、広告投資だけでなく、根本的な改革が必要でした。そうした議論の中で出てきたのが、社名変更という選択肢でした。正直に言えば、最初は抵抗がありました。アマテラスという名前には強い愛着があったからです。しかし考え続けた末にたどり着いたのは、自分の愛着よりもビジョンの実現を優先すべきだという結論でした。起業家のためにスタートアップ志望の人材を集める。そのためには認知度を上げる必要があります。そして「アマテラス」という名前は、スタートアップ転職のサービスであることが直感的に伝わりにくいので、変えるべきだと判断しました。こうして生まれたのが、「スタートアップクラス」という社名です。ここには、スタートアップに挑戦する人たちが新しいクラスをつくるという意味を込めました。私は「ハイクラス」という言葉に少し違和感がありました。そこには選民意識のようなものが残る気がするからです。一方で、スタートアップは想いがあれば誰でも飛び込める世界です。経歴ではなく、挑戦する意思によって集まる新しい階層をつくりたいと考えました。同時に、堀江貴文さんをイメージキャラクターに起用し、大企業で働く人に問いかける広告を展開しました。結果として、この挑戦は大きな反響を生みました。認知度は大きく上がり、登録者数も増加しました。重要だったのは、単に流入が増えただけではなかったことです。分析してみると、私たちが本来届けたかったスタートアップ志向の人材が、そのまま増幅された形で流入していたのです。違う層が集まったのではなく、届けたい相手にきちんと届いた。そこに、この施策の確かな手応えがありました。起業家の挑戦を支えるインフラへ。藤岡氏が見据える今後の展望スタートアップクラスが目指すのは、人材サービス企業としての成長ではない。藤岡氏の根底にあるのは、起業家が挑戦しやすい社会をつくるという想いだ。採用を入口として、起業家の抱える課題を総合的に解決するサービスを見据えている。藤岡代表:私の根底にあるのは、起業家をサポートしたいという想いです。起業家が何かを実現したいと思ったときに、余計な障壁に阻まれることなく挑戦できる社会をつくりたい。その想いは、これまでのキャリアを通してずっと変わっていません。理想は、「スタートアップの採用ならスタートアップクラスがある」と思ってもらえる社会です。シリコンバレーでは、スタートアップが人材を採用するためにAngellist(現Wellfound)、LinkedInなどのエコシステムがすでに整っています。プラットフォームを使えば、人材が自然と集まり、採用がスムーズに進む環境があるのです。日本でも同じような仕組みをつくることができれば、一つの大きな目標は達成できると思っています。ただ、私たちが目指しているのは、人材会社として大きくなることではありません。あくまで起業家の課題を解決するための会社です。採用はその入口に過ぎません。起業家には、採用以外にも多くの課題があります。チームビルディング、資金調達、イグジット(Exit)、そして経営者自身の孤独やメンタルの問題もあります。経営者という立場は、社員にも弱音を吐けないことが多いものです。そうした悩みを相談できる環境は、まだ十分に整っているとは言えません。将来的には、採用だけでなく、組織づくりや資金調達の支援、起業家同士が相談できるコミュニティなど、起業家の課題を総合的に解決する仕組みをつくりたいと考えています。私自身、人材業界出身というわけではありません。もともとは、起業家の課題を解決したいという想いからこの事業を始めました。だからこそ、採用に限らず、起業家が直面するさまざまな課題を一つずつ解決していきたいと思っています。スタートアップクラスは、起業家、そして挑戦する人を支えるための会社です。これからも、その原点を忘れずに事業を広げていきたいと思っています。インタビュー後記今回は株式会社スタートアップクラス 代表取締役社長 藤岡清高氏にお話を伺いました。印象的だったのは、藤岡氏のキャリアが一貫して「起業家の近くで働きたい」という想いから選択されてきた点です。銀行、MBA、ドリームインキュベータ、そして起業と、環境は変わってもその軸はぶれることがありませんでした。また、スタートアップクラスの事業も単なる人材サービスではなく、起業家が挑戦する際に直面する「仲間が集まらない」という構造的課題を解決する試みとして生まれていることが印象的でした。採用を入口に、挑戦する人が集まる新しいキャリアの“階級”をつくろうとする藤岡氏の挑戦は、日本のスタートアップエコシステムの発展にもつながる取り組みだと感じました。藤岡清高/東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事。慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)に携わる。1200社以上のスタートアップ経営者に提言をする中で、起業家が「採用」に苦労していることを知り、それを解決すべく、2011年に株式会社アマテラス(現スタートアップクラス)を創業。志ある起業家とスタートアップ参画希望者との出会いを創出することで、スタートアップ企業の成長を支援。【会社概要】会社名株式会社スタートアップクラス代表取締役社長藤岡清高事業内容スタートアップにコアメンバーとして参画するための転職・副業サイト『スタクラ』の運営キャリア女性のための時短転職サイト『ママテラス』の運営所在地東京本社東京都目黒区三田1-12-26 Ebisu Borg 101