インタビュイー:STOCK POINT株式会社 代表取締役社長 土屋 清美 様買い物で自然に貯まるポイントが、株価と“同じリズム”で増減したら投資はぐっと身近になる。そんな直感を実装したのが、STOCK POINT 株式会社だ。現金を投じる前に、まずはポイントで値動きに触れてみる。損失への恐れという心理の壁をやわらげ、投資体験の入口を広げる。この発想を核に、同社は2016年に創業した。いま展開するのは二つのモデル。約340銘柄から選べる自社アプリでのポイント運用と、日々利用するサービスを提供する企業の株価にポイントを連動させる“ココカブ”。生活と市場をシームレスにつなぐ設計で、投資を「特別な行為」から「日常の延長」へと変えていく。組織づくりにも同社の哲学はにじむ。スピードを旨とするベンチャーの機動力に、多様なバックグラウンドのメンバーが持ち寄る知恵と挑戦を掛け合わせる。正解がない領域で、まずやってみる。うまくいかなければ素早く学び、次に活かす―そんな循環を愚直に回し続けてきた。前編では、STOCK POINT 株式会社の事業を率いる代表取締役社長 土屋清美氏が、この仕組みへ行き着いた背景と、創業から初期提携を勝ち取るまでの軌跡を語る。“損が怖い”を乗り越える―投資心理に寄り添うポイント発想投資に挑戦したい気持ちはあるのに、「損はしたくない」という不安が最後の一歩を止めてしまうーそんな人は少なくない。STOCK POINTが見つめたのは、この“心理の壁”をやわらげる、誰にとっても身近な仕組みだ。土屋社長:私たちは、株価の値動きに連動してポイントが増減するサービスを提供しています。買い物でポイントをもらうのは今や当たり前で、その多くは次回の支払いに充てられます。もちろん、それは正しい使い方のひとつです。けれど私たちは、せっかくのポイントに「増やす」という楽しみを足せないかと考えました。そこで、受け取ったポイントをお金と同じように運用で増やし、増えたポイントは再び買い物に使える。さらに希望すれば実際の株式に交換し、そのまま資産として育てていけるーそんな循環を設計しました。出口の選択肢を複数用意し、「ポイント運用」を幅広い層が気軽に楽しめるようにする。それが当社の事業です。今でこそNISAの普及で少額投資の環境は整いましたが、私たちが創業した2016年当時は「貯蓄から投資へ」という掛け声こそあれ、投資はまだ一般的とはいえませんでした。老後資金を見据えても、貯蓄だけで本当に十分なのかという問題意識はある一方、投資に踏み出す人は今よりずっと少なかったのです。その背景、つまり投資のハードルはどこにあるのか。私たちが突き止めたボトルネックは「値動き」でした。利益が出れば嬉しい。けれど、評価が下がった瞬間に生じる“痛み”は、思った以上に強い。心理学でいう「プロスペクト理論」でも、人は利益を得る喜びよりも、同じ金額の損失による苦痛をはるかに大きく感じるとされています。つまり、理屈では理解していても、損失の可能性を想像した瞬間に心がブレーキをかけてしまう。その痛みを想像するだけで、投資をためらってしまう―そこに本質的な心理の壁があると考えました。値動き自体は避けられません。では、下がっても心が過度に傷まない仕組みは作れないか。自分の現金で投資すれば、減ったときの痛手は大きい。しかし、消費行動で得たポイント―もともと手元になかった価値であれば、仮にゼロになっても心理的ダメージは小さくて済むはずです。創業当時から「ポイント経済」は拡大基調にあり、市場規模はすでに1兆円規模に達していました。この成長領域に着目したのは、必然でもありました。日本人はポイントを“貯める”ことが好きです。その一方で、失効させてしまうケースも少なくありません。ならば、そのポイントでまずは運用を体験してもらい、投資への最初の一歩を安心して踏み出せるようにする―私たちが目指したのは、そんな心理にやさしい入り口づくりです。そもそも、土屋社長がポイント運用を思いついた背景とは。それは、取引先からの相談が出発点だった。土屋社長:私はSTOCK POINTを立ち上げる以前、金融機関向けのシステム開発会社(株式会社Sound-F)を経営していました。日々、銀行や証券会社の担当者と向き合う中で、繰り返し耳にしたのが「お客様を『貯蓄から投資へ』どう動かすか」という悩みでした。投資信託は証券会社だけでなく銀行でも販売できるようになり、現場からは「どう説明すれば投資の必要性が伝わるのか」「どうすれば裾野を広げられるのか」と具体的な相談が増えていきました。いわば“最後の一押し”を実現する、わかりやすい導線が求められていたのです。そこで私が行き着いたのが、ポイントを投資に活用するという発想です。買い物で自然に貯まるポイントなら心理的ハードルが低く、投資体験の入口として機能するーそう確信しました。さらに、Sound-Fで培った仕組み設計と大規模システム運用のノウハウは、このモデルを安全かつスケーラブルに実装するうえで大きな強みになる。そう判断して、起業に踏み切ったのです。前例なき挑戦のはじまり。最初の提携をつかむまで革新的な仕組みを描いても、受け入れてくれる相手がすぐに見つかるとは限らない。構想から実装へ―その間には、長くもどかしい時間が横たわっていた。幾度もの提案と試行錯誤の末、ようやく最初の提携が形になる。土屋社長:世の中に前例のないサービスで突破口を開くのは、本当に難しいものです。私たちも多くの企業様を訪ね、「こういうサービスを実現したい」と説明を重ねました。すると「面白いね」「そんなことが可能なんだ」と、関心は示していただけました。ただ、「一緒にやろう」と最初の一歩を踏み出してくださる決断には、なかなか至らない。ポイント運用は、当社単独では完結せず、ポイント発行元との提携が前提のモデルだからこそ、歯がゆい時期が続きました。最初に本気で手を挙げてくださったのが、ドットマネー様(現、サーバーエージェント)でした。ネット上でポイントを集め、ほかのポイントへ交換しながら多様なコンテンツ利用を促進している企業様で、「ポイント同士の交換から始めましょう」と背中を押していただき、提携が実現。最初の壁を越えた―そんな手応えを得ました。さらにその後、クレディセゾン様からもお声がけをいただきました。セゾンには「永久不滅ポイント」という、失効しないポイントの仕組みがある。お客様により価値ある使い方を提供したいとのご相談から、「永久不滅ポイントと連携しましょう」という流れが生まれたのです。ドットマネー様やクレディセゾン様と合意に至るまで、どれほどの社数を回ったか正確な数は覚えていませんが、相当な件数に及びました。期間にしておよそ一年。多くの企業様が興味は示してくださるのに、打ち合わせばかりが積み上がって前に進まない―そんな日々を、地道な提案と検証で一歩ずつ崩していったのです。手ごたえを得られない中で営業活動を継続できたのはなぜか。そして提携先を得られたのは運だという土屋社長。土屋社長:STOCK POINTを立ち上げた当時も、私は株式会社Sound-Fの経営を続けていました。いわば二輪駆動です。もちろんSTOCK POINTを伸ばしたい想いは強かったのですが、難題を力任せに押し切るのではなく、流れに身を任せて進めることにしました。画期的なアイデアであれば、一点突破で一気に前進するやり方もあるでしょう。けれど、私たちのサービスは自社だけでは完結しません。クライアント企業との連携が前提で、特に大企業様では意思決定に時間がかかる。そこは、いくらこちらが頑張っても早められない領域です。だからこそ、「自分たちでコントロールできること」と「できないこと」を切り分け、焦らない。この割り切りが、継続のエネルギーになりました。Sound-Fの事業があったからこそ、心の余裕も保てました。もし余裕がなかったら、途中で折れていたかもしれません。そうした中で、ドットマネー様との提携は“運”の要素が大きかったと感じています。最終的には会社間の契約ですが、実は鍵を握るのは担当者です。何度も何度も足を運ぶことで、偶然にも理解のある方、面白がってくださる方に出会える。良い出会いが一つ生まれると、扉が開き、物事が連鎖的に動き出す―まさにそうした瞬間でした。そこからは、有難いことに良縁が続きました。大和証券様や三菱UFJ銀行様といった大手金融機関から「一緒にサービスをつくろう」と声をかけていただき、その関係は今も続いています。とはいえ、順風満帆というわけではありません。壁は常に立ち現れます。私たちは基本的にアプリやWebを通じてサービスを提供していますが、どのような体験として提供するかは継続課題です。コアはポイント運用。しかし「運用できる」だけでは不十分で、どう楽しんでもらうか、どう関心を持ち続けてもらうかを常に考え、トライ&エラーを繰り返しています。もちろん失敗も多い。ひとつ壁を越えても、その先にまた新しい壁がある。だからこそ、体当たりで更新し続ける―それが、今の私たちのスタンスです。前編では、STOCK POINT 株式会社が「ポイントで疑似投資体験」を発想した背景と、創業初期の提携獲得を巡る試行錯誤、そして“最初の一歩”を後押しする心理設計を凝縮して追った。後編では、土屋社長が語る「挑戦を評価する」組織づくりと学習を加速させるマネジメントを軸に、自社アプリと“ココカブ”の拡張戦略、生活と市場を結ぶビジョンの輪郭を描く。