インタビュイー:株式会社コラボハウス代表取締役 松坂直樹様愛媛県松山市に本社を置く株式会社コラボハウスは、新築のデザイナーズ注文住宅を手掛けるハウスメーカーである。特筆すべきは、総合展示場にモデルハウスを構えず、営業担当者も置かないという、業界の常識とは一線を画すビジネスモデルだ。建築の専門知識を持つ設計士が顧客との初期接触から設計、建設、引き渡しまでを一貫して担うこの体制は、高い顧客満足度を実現し、同社を四国エリアNo.1の施工棟数を誇る企業へと成長させた。その成長の根幹にあるのが「すべては友人のために」という信念だ。なぜ彼らは、業界の当たり前をやめたのか。そして、顧客をファンに変えるサービスの神髄とは何か。前編では、コラボハウスのユニークな事業モデルと、それを支える揺るぎない哲学に迫る。モデルハウスも営業もなし。設計士がすべてを担うコラボハウス独自のスタイルハウスメーカー業界では、住宅展示場内にモデルハウスを構え、そこで営業担当者が接客を行う。そして、顧客がそのハウスメーカーで住宅を建設することを決めると、営業担当者から設計担当者へと引き継がれていくのが一般的だ。それに対して、コラボハウスでは、全国にモデルハウスを置いておらず、営業のみを行う社員もいない。その独自の事業モデルこそが、顧客が友人・知人に紹介したくなるほどの顧客満足を作り上げている。このスタイルを通じて、顧客のニーズを設計にダイレクトに反映させると同時に、徹底したコスト削減を実現。その削減分を顧客の家の価値向上に還元する、合理的な仕組みを成り立たせている。このユニークなビジネスモデルを掲げるコラボハウスとは、どのような会社なのか。松坂代表:私たちは、愛媛県松山市に本社を置く、新築のデザイナーズ注文住宅を手掛ける会社です 。2008年に創業し、現在の社員数は140名を超えました(2025年7月時点) 。展開エリアも四国を中心に、関西、中国、東北エリアへと拡大を続けており、現在では6府県に13のスタジオを構えています 。年内にはさらに新規出店を控え、今後も成長を続けていく計画です。おかげさまで、私たちの業績は右肩上がりで成長を続けています。一方で、新築の注文住宅市場は、少子高齢化や人口減少の影響を受けており、“斜陽産業”とも言われています。特に、私たちが事業を展開する地方では人口流出も深刻です 。「かつては成長産業だったものの、今後の発展が見込まれにくい」というこの市場のなかで中でなぜ成長できているのか。それはひとえに、私たちのビジネスモデルに理由があります 。私たちの会社には、いわゆる「住宅営業」という職種の社員がいません。一般的な住宅会社では、営業担当が最初の接客から契約までを担当し、その後に設計や工事へと引き継がれる分業スタイルが主流です。しかし、私たちは違います。お客様との最初の出会いから、ご要望のヒアリング、資金計画、設計提案、そして引き渡しまで、すべてを建築の専門知識をもつ『設計士』が一貫して担当します。そのビジネスモデルの核心は、「営業を置かない」という業界の常識を覆す点にある。松坂代表:私たちがなぜ、設計士が一貫して担当するスタイルにこだわるか。それは、お客様の家づくりに込められた願い、そして言葉にできない細かなニュアンスまで、すべてを汲み取りたいという強い思いからです。家づくりは、ご家族の将来を考える大切な時間。そこで育まれる理想の暮らしを、少しもこぼすことなく設計に直接反映させるために、このスタイルが最善だと考えています。特に私たちが手掛ける住宅は、外観デザインに特徴のあるものが多くなっています。内装はインテリアでもある程度お客様のイメージを作ることができますが、建物の外観はごまかしが効かず、設計士の腕が直接反映される領域です。だからこそ、設計士が直接お客様の思いを伺い、デザインに落とし込むプロセスが不可欠なのです。設計士主導のスタイルには、経営上のメリットも大きいです。多くのハウスメーカーさんが莫大なコストをかけている、総合展示場のモデルハウスや専門の営業人件費が、私たちには必要ありません。その分、お客様の住宅そのものにコストをかけ、同じ価格帯でもより高品質でデザイン性に優れた家を提供することを可能としています。保育士が常駐する打ち合わせ空間と「すべては友人のために」を貫くサービス設計独自のビジネスモデルで生み出したコストメリットは、住宅価格への還元だけでなく、他社にはないユニークな顧客サービスへと再投資される。その象徴が、保育士が常駐する“カフェのような打ち合わせ空間”だ。顧客に最高の環境を提供するという一見、遠回りに見える投資が、顧客の心を掴む最大の武器ともなっている。松坂代表:お客様がリラックスして、どんなことでも気兼ねなく話せる環境づくりを、私たちは何よりも大切にしています。実際に家づくりで後悔された方の話を聞くと、「言いたいことを言えなかった」というケースが非常に多い。担当者に何度も修正をお願いするうち、自分がまるでクレーマーのように感じられ、遠慮して最後には妥協してしまうのだそうです。私たちは、そういったお客様の心理的な負担を徹底的に取り除きたい。例えば、打ち合わせのスタジオは、オープンなカフェのような空間で、音楽をかけ、ジュースやお菓子をつまみながらリラックスして話せるようにしています。しかし、コラボハウスの本当の強みは仕組みだけではない。顧客体験への徹底したこだわりは、どこから来るのだろうか。松坂代表:私たちのサービスの根幹には、「すべては友人のために」という行動指針があります。もし、目の前にいるお客様が自分の本当に大切な友人だったらどう接するか、社員には常にそれを考えて行動するように伝えています。友人に無理な資金計画を勧めたり、心から良いと思えないものを提案したりはしませんよね。実はこの哲学は、創業者自身の「痛み」から生まれたものなんです。創業者も一級建築士なのですが、いざ自分の家を建てようとした際、理想のデザインと予算の両立に非常に苦労したと聞いています。さらに、実の兄から「良い会社はないか」と相談された際も、プロの視点で自信を持って推薦できる会社が見つからなかったそうです。「友人のように親身に、理想の家づくりを助けてくれる会社がない」。そのときの悔しい思いが、コラボハウスの原点になっているんです。この哲学を突き詰めた結果、生まれたのが、保育士が常駐する打ち合わせ空間です。家づくりはご夫婦にとって人生を左右する大切な時間。その時間に集中できるよう、私たちがお子様をしっかりお預かりする。お客様がリラックスして話せるよう、スタジオをカフェのような空間にしているのも、同じ理由からです。こうした姿勢が、とても印象的なエピソードにつながったこともあります。10年ほど前に親御さんに連れられてきたお子様が、当時の楽しい記憶が忘れられず、後に保育士となって私たちの会社に入社してくれたのです。他にも、ケースバイケースではありますが、引っ越しのお手伝いをしたり、家具選びに同行したり。これらはマニュアル化されているわけではありません。社員一人ひとりが「友人のために何ができるか」を自発的に考え、行動に移してくれている。このカルチャーこそが、私たちの最大の強みかもしれません。顧客が”ファン”になる好循環と、その先に待ち受けていた組織の壁徹底した顧客志向の事業モデルとサービスは、高い満足度を生み、紹介が紹介を呼ぶ好循環を創出した。会社は急成長を遂げるが、その成功こそが、創業以来の組織体制に大きな課題を突きつけることになる。松坂代表:こうした一つひとつの積み重ねがお客様からの信頼につながり、顧客推奨度を測るロイヤリティ※1 は非常に高く、ご紹介で来てくださる方も後を絶ちません。また、SNSでの取材協力をお願いすると、「私たちのセンスが認められたみたいでうれしい」と、喜んで協力してくださいます。コラボハウスの「ファン」になっていただいたお客様や理念に共感してくれる社員に支えられ、会社は創業から15年で売上は50倍以上に成長しました。特に、コロナ禍前後の4年間で社員数は2倍以上に増えました。そして、20名以上の社員が自社で家を建てるほど、自分たちの仕事に誇りを持ってくれています。しかし、まさにその成長が、新たな課題を生み出しました。創業以来、私たちの会社は特定の役職を設けない「フラット組織」を志向してきました。社員皆が平等に協力し合うというカルチャーが、少数精鋭でやっていた頃はうまく機能していたのです。ところが、会社が大きくなり、社員数が100名を超えたあたりから、その仕組みがうまく回らなくなっていったのです。フラット組織を目指していたため、意思決定や相談事は創業者が行っていました。拠点が増えれば増えるほど、すべての報告や意思決定が創業者に集中してしまう。これでは、次のリーダーも育ちませんし、会社の成長スピードにもブレーキがかかってしまう。会社の成長と、組織のあり方との間に、大きな歪みが生まれていたのです。会社が次のステージへ進むためには、創業以来の組織体制からの抜本的な変革が、喫緊の経営課題となっていました。会社が大きくなればなるほど、個の力だけでは支えきれなくなります。特に私たちのように、設計と営業を一体で担うビジネスモデルでは、その分だけ求められる能力の幅も広くなります。細部にこだわる緻密さと、人の心に寄り添う柔軟さ。その両方を備えた人材の育成は、言うほど簡単ではありません。けれど、この矛盾を受け入れ、育てていくことこそが、次の成長への鍵だと感じています。※1 顧客が特定の企業や製品、サービスに対して抱く信頼や愛着のこと前編では、コラボハウス独自の「設計士主導」のビジネスモデルと、それがもたらす顧客体験の深さについて話を伺った。後編では、すべての原点である創業者の「痛み」と経営哲学、そして「100人の壁」という危機を乗り越え、会社が描く未来像と地方創生への挑戦に迫る。