インタビュイー:VAIO株式会社 代表取締役社長 糸岡 健様VAIO株式会社は、PCおよび関連製品・サービスの企画・開発・製造・販売・サポートを手がける企業である。1997年にソニーで始まったVAIO事業を前身とし、ソニーから独立した。長野県安曇野市の本社工場をものづくりの中核に据え、「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」という3つの商品理念を掲げ、独自の製品づくりを追求している。2025年にはノジマ チームの一員となり、製造設備への投資や顧客接点の拡大など、次の成長に向けた取り組みを進めている。代表取締役社長を務める糸岡健氏は、1992年にソニー株式会社へ入社し、1996年のVAIO事業立ち上げ期から参画。2000年からは欧州VAIO事業の立ち上げに携わるためベルギーに赴任した。2014年のVAIO株式会社設立時にはCFOとして参画し、独立後の事業再建を支える。2025年には、VAIOのノジマ チーム参画を契機に代表取締役社長へ就任した。前編では、VAIO株式会社 代表取締役社長 糸岡 健氏に、VAIOが掲げる3つの商品理念や、VAIO事業の立ち上げからソニー独立に至るまでのキャリアについて、お話を伺った。「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」。VAIOが貫くものづくりの哲学「VAIOらしさ」とは、何か。その答えとして生まれたのが、「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」という3つの商品理念だった。糸岡代表:VAIO株式会社は、2014年7月にソニーから独立し、長野県安曇野市を拠点にPC事業を展開しています。当社では、VAIOの製品に共通する価値として、「カッコイイ(Inspiring)」「カシコイ(Ingenious)」「ホンモノ(Genuine)」という3つの商品理念を掲げています。VAIOの社員たちは以前から、こうした姿勢を大切にしながらものづくりに向き合ってきました。ただ、それまでは言葉として明確に定義されておらず、いわば社内の暗黙知として共有されていたのです。そこで2023年3月、「VAIOらしさとは何か」を改めて言語化し、3つの商品理念として打ち出しました。商品理念として明確に示したことで、お客さまやパートナーの皆さまにもVAIOのものづくりに対する姿勢を伝えやすくなりました。同時に、私たち自身も「何を大切にして製品をつくるのか」という共通認識を持ち、より明確な意思を持ってものづくりに取り組めるようになったと感じています。「カッコイイ(Inspiring)」は、単に外観が美しいという意味ではありません。VAIOが目指しているのは、機能美まで含めた「カッコイイ」です。海外では以前から、VAIOを「Cool!」と評価していただくことがよくありました。ただ、「Cool」という言葉は、どちらかといえば見た目の良さというニュアンスが強く、私たちが考えるVAIOらしい「カッコイイ」を十分には表現できません。そこで英語では、あえて「Inspiring」という言葉を当てました。製品を手にした瞬間や実際に使うなかで、思わず「WOW!」と感じるような感動や刺激がある。そこまで含まれて初めて、VAIOらしい「カッコイイ」になると考えています。見た目の美しさだけでなく、触り心地や操作感、機能性まで含めて感動を生み出すことが、VAIOらしい「カッコイイ」です。2つ目の「カシコイ(Ingenious)」も、単に高機能・高性能な製品を目指すという意味ではありません。私たちの考える「カシコイ」とは、お客さまの仕事の生産性を高め、新たなひらめきや行動を支える「相棒」のような存在になることです。そのため、まず「お客さまの体験価値をどう高めるか」を考え、その実現手段としてAIをはじめとする技術を活用しています。その一例が、オンライン会議で使用するAIノイズキャンセリング機能です。「オンライン会議をもっと快適にできないか」というお客さまの利用シーンから逆算し、会議相手の声がスピーカーからマイクに入り込むのを抑え、ユーザー本人の声のみをより的確に拾えるよう機能を強化しました。どれだけ高度な技術や性能を備えていても、それがお客さまの体験向上につながらなければ意味がありません。実際に使ったお客さまに「便利になった」と感じていただいて初めて、VAIOにとっての「カシコイ」が実現すると考えています。3つ目の「ホンモノ(Genuine)」を支えているのが、徹底した品質へのこだわりです。その象徴の1つが、2014年の独立以来続けている「安曇野FINISH」です。機械による検査だけで品質管理を完結させるのではなく、出荷前に専任の技術者が1台ずつ、人の目と手で最終確認を行います。製品を実際に使うのは人ですから、触ったときの心地よさや、わずかな違和感まで見極めるためには、人の目と手が欠かせません。もちろん、デジタル化できる部分には積極的にデジタル技術を活用します。一方で、人にしか判断できない部分は人が担う。それぞれの強みを生かしながら、細部まで品質を磨き続けることが、VAIOの考える「ホンモノ」です。こうした品質へのこだわりを積み重ねた結果、2025年には「日経コンピュータ 顧客満足度調査 2026-2027」のクライアントパソコン部門で、2年連続で1位を獲得することができました。ゼロから事業をつくる面白さ。VAIOの立ち上げからソニー独立まで<すべての品質チェックが完了した証明である「安曇野FINISH」スタンプ>次に、VAIO事業の立ち上げから欧州事業の再建に至るまでの歩みについて、お話を伺った。糸岡代表:私は大学卒業後の1992年に、ソニーへ入社しました。当時のソニーは、学生の就職人気ランキングでトップに挙げられる会社で、私自身も強い憧れを持っており、「一番人気の会社に入りたい」という想いで入社を決めました。最初に配属されたのは、コンピューター事業部の管理部門です。私はそこで、放送局向けの編集用コンピューターやワークステーション(3DCG制作、映像編集、AI開発などの専門業務で使われる、非常に高い処理能力と耐久性を持ったプロ向けの高性能コンピューター)の生産管理の仕事からキャリアをスタートしました。VAIO事業は、そのコンピューター事業部を母体として立ち上げられました。当初は、設計や管理部門を含めても、非常に小さな組織からのスタートでした。人がいなかったので、私自身も生産管理から経営管理まで1人で担当していました。発売当初は、1週間に数百台ほど生産する規模でしたが、そこから事業は急速に拡大していきました。みんなで試行錯誤し、ときには徹夜もしながら、目の前で事業が大きくなっていく。そうしたベンチャーさながらの立ち上げから成長までの過程を当事者として経験できたことは、今振り返ってもかけがえのない財産です。一方、立ち上げから3年ほどが経つと、組織や役割分担が整い、仕事の進め方も徐々にシステマティックになっていきました。立ち上げ期にあったベンチャーのような熱気が薄れ、整然とした組織へ変わっていくなかで、私はどこか物足りなさを感じるようになっていったのです。ちょうどその頃、欧州のVAIO事業が立ち上がり始めていましたが、なかなか軌道に乗らず、テコ入れが必要な状況でした。そこで自ら手を挙げ、2000年から2004年までベルギーに赴任しました。現地では、赤字だった事業の立て直しに加え、各国の規制や仕様に対応するための生産体制の構築、営業やマーケティングの現地化、サービスやオペレーションのプラットフォーム構築など、幅広い業務に携わりました。最終的には事業の黒字転換まで経験し、海外でもゼロに近い状態から事業を形にしていく面白さを味わうことができました。帰国後、糸岡代表は事業再建のため安曇野に拠点を集約し、自ら設計部門へ異動。そして2014年、糸岡代表はソニーから独立するVAIOへの参画を決めた。糸岡代表:帰国後は、VAIOの国内サービス部門のコスト改革を担当し、その後再び経営管理に戻りました。しかし、2009年頃からVAIO事業は厳しい状況に直面します。2008年のリーマンショックに加え、急激な事業拡大に過度に数字を追いすぎた結果、経営が立ち行かなくなってきたのです。そこで2010年、東京にあった開発部門やオペレーション部門を、長野県安曇野の製造拠点に集約しました。約1,200名が安曇野に集まり、VAIO事業の立て直しに取り組むことになったのです。生活環境も含めて大きな変化ではありましたが、VAIO事業の先行きを考えれば、現場が1つになって取り組む必要があると受け止めていました。安曇野への拠点集約後も、事業を安定させることは簡単ではありませんでした。私自身も経営管理の立場から事業全体を見てきましたが、それだけではなく、もっと直接的にVAIOの製品づくりに関わりたいという気持ちが強くなっていきました。そこで、自ら設計部門へ異動し、プロダクトマネージャーとして商品開発に携わりました。長く管理部門を歩んできた私にとって、設計は未知の領域です。それでも、技術者が何を考え、どのような試行錯誤を重ねながら製品を形にしているのかを現場で知ることができたのは、その後の経営にもつながる大きな財産になりました。そして2014年、ソニーの経営再建が進められるなか、VAIO事業は投資ファンドの日本産業パートナーズが事業を譲り受け、ソニーから独立することになりました。そのとき私は、もう一度ゼロからチャレンジできることに大きな魅力を感じ、自ら手を挙げてVAIO事業の独立に参画しました。何よりVAIOという製品が好きでしたし、良い製品をつくっているにもかかわらず、事業としてうまくいかなかったことへの悔しさもありました。設計者としての経験はまだ浅かったため、それまで長く携わってきた経営管理の立場で力を発揮したいと考え、CFOとして新会社の立ち上げに参画することになりました。「ソニーに残るよりも、独立してもう一度VAIOを輝かせたい」という想いが、私の決断を後押ししたのです。前編では、VAIOが掲げる3つの商品理念や、VAIO事業の立ち上げからソニー独立に至るまでのキャリアについて、お話を伺いました。後編では、独立後のVAIOの再建の軌跡や、ノジマ チーム参画後の変化、安曇野から描く日本のものづくりの未来について、お話を伺っていきます。糸岡 健/甲南大学理学部経営理学科卒業後、1992年ソニー株式会社に入社。1996年VAIO事業部門立ち上げ期からのメンバー。SCM・経営企画担当を経て、2000年から4年間欧州VAIOビジネス立ち上げのためにベルギー赴任。帰任後はサービスマネジメント、経営企画マネジメント、設計プロジェクトマネージャーを歴任。2014年VAIO株式会社独立に参画。執行役員CFO兼コーポレート部門長、EMS事業本部長を担当。2019年9月より取締役 執行役員常務 オペレーション本部長として、調達・製造・製造技術・品質・サービス・SCMの責任者としてVAIOものづくり力の更なるバリューアップを牽引。2024年6月の取締役 執行役員常務 社長室長・品質保証担当を経て、2025年12月、代表取締役執行役員社長に就任。【会社概要】会社名VAIO株式会社事業開始日2014年7月1日代表取締役社長糸岡 健事業内容PCおよび関連製品・サービスの企画・開発・製造・販売・サポート所在地東京本社 東京都港区虎ノ門4-3-20 神谷町MTビル17階安曇野本社 長野県安曇野市豊科5432