インタビュイー:VAIO株式会社 代表取締役社長 糸岡 健様VAIO株式会社は、PCおよび関連製品・サービスの企画・開発・製造・販売・サポートを手がける企業である。1997年にソニーで始まったVAIO事業を前身とし、ソニーから独立した。長野県安曇野市の本社工場をものづくりの中核に据え、「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」という3つの商品理念を掲げ、独自の製品づくりを追求している。2025年にはノジマ チームの一員となり、製造設備への投資や顧客接点の拡大など、次の成長に向けた取り組みを進めている。代表取締役社長を務める糸岡健氏は、1992年にソニー株式会社へ入社し、1996年のVAIO事業立ち上げ期から参画。2000年からは欧州VAIO事業の立ち上げに携わるためベルギーに赴任した。2014年のVAIO株式会社設立時にはCFOとして参画し、独立後の事業再建を支える。2025年には、VAIOのノジマ チーム参画を契機に代表取締役社長へ就任した。後編では、VAIO株式会社 代表取締役社長 糸岡 健氏に、独立後のVAIOの再建の軌跡やノジマ チーム参画後の変化、安曇野から描く日本のものづくりの未来について、お話を伺った。独立後のVAIOをどう立て直したのか。EMSとBtoBで築いた再成長の基盤約240名で再出発したVAIOは、EMS事業への参入とBtoBへの転換を進めながら、再び成長できる会社へと変わっていった。糸岡代表:2014年にVAIO事業を投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が譲り受け、ソニーから独立したとき、最初のメンバーは約240名でした。独立と言っても、実際には会社を一からつくるところからのスタートです。それまで利用していたソニーのシステムも、工場の製造システムを除けば基本的に使えなくなりました。そこで、社員全員で力を合わせ、会社としての体制を1つずつ整えていきました。ただ、独立直後から経営が順調だったわけではありません。PC事業だけで成長していくことは難しく、そこで着手したのが、VAIOが持つものづくりの力を生かした設計・製造受託、いわゆるEMS事業です。ロボットやIoT機器、ドローンなど、PC以外のさまざまな製品の設計・製造を受託するようになりました。当時は、エンジニア自身が営業して案件を獲得することもありました。このEMS事業があったからこそ、独立後もエンジニアの規模を維持し、VAIOが持つものづくりの力を残すことができたと思っています。一方で、その裏側では、PC事業そのものの方向転換も進めていました。それまでVAIOはBtoC向けのPC事業を中心に展開していましたが、独立後はBtoB向けへと軸足を移していくことになります。当初は、ソニー時代から受け継いだBtoC向けの商品を法人のお客さまに販売していました。しかし、実際に使っていただくなかで、法人のお客さまが求める品質や使い方に十分応えられていないことを実感しました。そこで、「法人のお客さまに評価していただける製品をつくらなければ生き残れない」と考え、法人向けの商品開発に力を入れていきました。EMS事業で足元の収益を支えながら、その裏で少人数の開発チームがBtoB向けの製品をつくる。独立から2年ほど経つ頃には、その製品がお客さまにも受け入れられるようになり、少しずつ法人向け事業が伸び始めました。そして2021年以降は、法人営業の強化に本格的に取り組みました。独立当初、VAIOには自前の営業部隊がほとんどなく、販売は外部の販売網に依存していました。そのため、良い製品を開発しても、それを法人のお客さまへ直接届ける力が十分ではなかったのです。そこで法人営業の人員を増やし、営業体制を一気に強化しました。それまで積み上げてきた技術力と営業力がかみ合ったことで、BtoB事業は大きく成長していきました。また、VAIOの再建においては、経営フェーズに応じて経営トップが変わっていったことも大きかったと思います。まずはコストを抑えて黒字化する。その次は、築いたBtoB事業の基盤を広げていく。節目ごとに経営トップが変わり、その時々でVAIOが進むべき方向性を示してもらえたことで、VAIOは再建することができたのだと思います。私はその間、長くNo.2として、さまざまな経営トップを支えてきました。当然、それぞれ考え方も個性も異なりますが、最終的な目的は「VAIOを良くすること」で共通しています。それぞれの経営者の強みを吸収しながら方向性を合わせ、会社を前に進めていくことが、自分の使命だと考えていました。VAIOをもっと良くするために。ノジマ チームで描くVAIOの次章2025年、VAIOはノジマ チームの一員となり、新たな成長フェーズに入った。ノジマ チーム参画後の変化について、お話を伺った。糸岡代表:VAIOは2025年、デジタル家電専門店を展開するノジマ チームの一員となり、私自身も社長に就任しました。ソニーから独立し、日本産業パートナーズ(JIP)のもとで再建に取り組んだ約10年間は、限られた経営資源のなかで収益基盤を固め、事業を着実に成長させることが優先されてきました。そのため、積極的な投資を行える状況ではありませんでした。一方、ノジマ チームへの参画後は、「VAIOをより良くするために必要なところには、積極的に投資する」という方向へ大きく変わりました。特に、日本の製造拠点への投資を進め、国内のものづくりをさらに強化していく方針は、安曇野でものづくりを続けてきた私たちの考えとも重なっています。その一例として、安曇野本社工場の製造ラインへの投資も進めています。これまで培ってきた技術や品質を守るだけでなく、新しい製品や事業を生み出すための基盤を、さらに強化できるチャレンジを積極的に行う段階に入ったと感じています。<2026年9月10日に発表した「VAIO® T」「VAIO® T work」>また、ノジマの店舗網を活用し、お客さまがVAIOに直接触れられる機会を増やせることも、大きなシナジーの1つです。PCはスペックや画像を見るだけでは、手にしたときの質感や画面の見やすさ、操作感まで十分に伝えることができません。そこでノジマの店舗内に、VAIOならではの使い心地や独自機能を体感することができ、お客さまご自身に合った使い方を相談できる「VAIO Shop in Shop」を展開しています。VAIO PCやアクセサリーを実際に手に取りながら、Microsoft 365のAI機能やVAIO独自の技術を体感していただけます。また、VAIOの製品知識とコンサルティング力を備えた「VAIOマイスター」が、お客さま一人ひとりに合ったまさにコンサルティングセールスを実行しています。<左:VAIO Shop in Shop、右:VAIOマイスター>そして、組織の変化として最も大きいと感じているのが、「まずやってみよう」という空気が強くなったことです。投資や新しい取り組みに対して前向きに挑戦できる環境が整い、社員一人ひとりがアイデアを出しやすくなりました。守りながら再建するフェーズから、次の成長に向けて積極的に挑戦するフェーズへ。VAIOはいま、大きな転換点を迎えていると感じています。「VAIOがあるから、可能性が広がる」。安曇野から描く日本のものづくりの未来<VAIO安曇野工場>最後に、今後の展望について、お話を伺った。糸岡代表:私は、VAIOを単なるPCメーカーとして終わらせたくないと考えています。10年後・20年後は、今のような「PC」という形そのものが変わっているかもしれません。それでも、VAIOがお客さまの一番近くにいて、お客さまの可能性を一番広げる存在であり続けたいと思っています。そのためにも、「カッコイイ・カシコイ・ホンモノ」という3つの商品理念を、お客さまに心の底から感じていただける製品をつくり続けなければなりません。私はエンジニアではありませんが、昔から「良いものを長く使いたい」という価値観を持っています。こだわってつくられたものには、作り手の想いが込められています。それが伝わると、自然と大切に使いたいという気持ちになる。私自身、そうしたものづくりに魅力を感じてきましたし、VAIOもまた、お客さまに長く大切に使いたいと思っていただける製品でありたいと考えています。社長就任時には、安曇野に「新たなる理想工場をつくる」と宣言しました。ここでいう理想工場とは、単に製品を効率よく生産する場所ではありません。デジタル技術を積極的に活用する一方で、人にしかできない技術や感覚も大切にして、新しい価値を生み出す。そうした時代に合ったものづくりのあり方を安曇野で形にし、日本の製造業にとって1つのモデルケースとなる工場をつくりたいと思っています。日本には今も、中堅・中小企業を含め、世界に誇れる技術が数多く残っています。一方で、担い手不足や技術継承の難しさによって、そうした技術が失われてしまう可能性もあります。私は、今が1つの大きな分岐点だと感じています。ここで動かなければ、日本のものづくりを支えてきた優れた技術が失われてしまうかもしれません。だからこそ、VAIOだけで完結するのではなく、同じ想いを持つ企業や人たちと力を合わせていきたいです。VAIOというブランドや、ソニーから受け継いできたものづくりの精神があるからこそ、私たちが声を上げることで共感してくださる方もいると思っています。日本のものづくりをもう一度、明るく、楽しく、ワクワクするものにしていきたい。そのためには、まず自分たちが一歩を踏み出すことが大切です。ノジマからも「失敗してもいいから、まずやってみよう」と背中を押してもらっています。言葉にして、一歩踏み出す。そこから、自分たちだけでは想像できなかった新しい力やつながりが生まれることもあります。まず挑戦するという姿勢を大切にしながら、VAIOから日本のものづくりをもっと元気にしていきたいと思っています。編集後記今回は、VAIO株式会社 代表取締役社長 糸岡健氏にお話を伺いました。VAIO立ち上げから、独立後の再建、そしてノジマ チーム参画後の新たな挑戦まで、一貫してVAIOの成長を支えてきた糸岡社長。お話を通じて見えてきたのは、「VAIOらしさ」という守るべき価値を大切にしながら、環境の変化に応じて事業や組織を変え続ける姿勢でした。受け継いできたものづくりの精神を未来へつなぎ、新たな成長へ踏み出す姿から、企業における継承と変革の大切さを学ばせていただきました。糸岡 健/甲南大学理学部経営理学科卒業後、1992年ソニー株式会社に入社。1996年VAIO事業部門立ち上げ期からのメンバー。SCM・経営企画担当を経て、2000年から4年間欧州VAIOビジネス立ち上げのためにベルギー赴任。帰任後はサービスマネジメント、経営企画マネジメント、設計プロジェクトマネージャーを歴任。2014年VAIO株式会社独立に参画。執行役員CFO兼コーポレート部門長、EMS事業本部長を担当。2019年9月より取締役 執行役員常務 オペレーション本部長として、調達・製造・製造技術・品質・サービス・SCMの責任者としてVAIOものづくり力の更なるバリューアップを牽引。2024年6月の取締役 執行役員常務 社長室長・品質保証担当を経て、2025年12月、代表取締役執行役員社長に就任。【会社概要】会社名VAIO株式会社事業開始日2014年7月1日代表取締役社長糸岡 健事業内容PCおよび関連製品・サービスの企画・開発・製造・販売・サポート所在地東京本社 東京都港区虎ノ門4-3-20 神谷町MTビル17階安曇野本社 長野県安曇野市豊科5432