インタビュイー:株式会社ウィルミナ 代表取締役社長 幸村 潮菜様「実力や努力がきちんと報われる、フェアな会社をつくりたい」。そう語るのは、株式会社ウィルミナ代表取締役社長・幸村潮菜氏だ。ウィルミナは、ファブレスの化粧品メーカーとして1984年に誕生し、今年で41年目を迎える。生協向け化粧品の企画・開発を基盤に、長年にわたり“安心・安全で高品質なものづくり”を追求してきた。いまやその信頼は全国3,000万人の組合員に広がり、同社は業界屈指のトップベンダーへと成長。一方で、伝統の上に安住することなく、自社ブランド『イビサビューティー』を展開し、フェムケア市場やEC領域といった新たな舞台にも挑戦を続けている。堅実な品質主義と革新的な挑戦心ー相反するようでいて、その両輪こそがウィルミナの強さの源だ。社員・派遣スタッフを含め約100名の組織となった今も、同社の根底にあるのは「安心・安全で高品質な化粧品を、適正価格で届ける」という創業以来の理念。前編では、40年以上にわたるウィルミナの歩みと、生協市場で培った信頼、そして新たな時代に挑むブランド戦略について、幸村社長に伺った。創業から40年ー「素材をどう活かすか」から始まった化粧品づくりの原点40年以上にわたり、ウィルミナは“素材を活かす知恵”を軸に成長を続けてきた。その歩みは、大手商社の一部門として生まれた小さな化粧品事業から始まり、幾度もの転換期を経て「自ら考え、つくり、届ける」独立企業へと進化してきた。守られる立場から、挑戦する立場へーその変化の過程に、ウィルミナの企業DNAが宿っている。幸村社長:ウィルミナは、ファブレス(自社で製造ラインを持たない)化粧品メーカーとして1984年に誕生しました。今年で41年目になります。もともとはニチメン株式会社(現・双日株式会社)の化学部門の一事業としてスタートしています。当時は「良い素材が手に入った。これをどう活かせるだろう?」という、いわば“素材起点”の発想から化粧品事業が始まりました。研究所もブランドもない状態で、素材のポテンシャルをどう製品として形にするかを模索するーそれがウィルミナの原点です。その後、化粧品事業は双日に吸収され、のちに分社化によって双日コスメティックス株式会社として新たな歩みを始めました。長年、商社の子会社として堅実に成長を続けてきましたが、2016年に大きな転換期を迎えます。ファンドが株主となり、親会社の傘の下から離れ、自らの意思で経営する独立企業へと舵を切ったのです。子会社の頃は、ある種「守られている安心感」がありました。しかし独立後は、営業から開発、品質管理に至るまで、すべてを自分たちの判断と責任で進めていく必要がありました。そこから社員一人ひとりに「自分たちの力で会社をつくる」という意識が芽生えたように思います。現在、ウィルミナはアルバイトや派遣スタッフを含め、約100名規模の組織です。決して大きな会社ではありませんが、「安心・安全・高品質な化粧品を適正価格で届ける」という信念は、40年前から一度も変わっていません。むしろ独立を経た今、その精神を“自分たちの意思で守り抜く”という覚悟が社内に強く根付いています。生協市場で磨かれた、“信頼の品質”と“誠実なものづくり”40年間にわたり同社を支えてきたのが生協向け化粧品事業だ。全国3,000万人の組合員が利用する巨大マーケットで、ウィルミナはトップベンダーとして信頼を築いてきた。幸村社長:私たちの事業は大きく分けて2つあります。ひとつは、生協(コープ)向けに化粧品を企画・開発する事業。もうひとつが、自社ブランドを一般市場に展開する事業です。生協というのは、組合員登録をした方だけが利用できるクローズドなマーケットです。全国に約3,000万人の組合員がいて、マーケット全体では3兆円規模。そのうち多くは食品ですが、生活雑貨や化粧品も取り扱われており、当社はその中でトップベンダーの一角を担っています。生協の化粧品カテゴリーでは、洗顔料や化粧水、乳液、美容液、日焼け止めといった基礎化粧品に加えて、メイクアップ商品まで幅広く手がけています。商品数で言えば、月によって変動はあるものの、200品以上提供する生協もあるほどです。生協で化粧品を扱うメーカーは限られていて、厳しい品質基準と生協によって異なりますが、複雑な承認プロセスに耐えられる会社でないと難しいのです。生協の商品づくりで最も重視されるのは、やはり“安心・安全”。使用する成分は安全性が確認されているものを選んで配合していますが、処方や原料の段階から細かく審査される場合もあるほど厳格です。しかも「安心・安全」で終わりではなく、効果を実感できなければ次の購入にはつながらない。そのため、品質とコストの両面で高度なバランスが求められます。価格帯は1,000〜3,000円と非常にリーズナブルですが、品質にこだわり、選び抜いた原料を惜しまず配合しています。過度な宣伝に頼らずに済む生協チャネルだからこそ、コストを原料に回して品質で勝負できるのです。メインのお客様は50代〜80代のシニア世代です。シニアの方々は「効き目があった」「刺激がなく安心して使える」という実感を非常に大切にされます。実際、40年以上にわたりリピートしてくださる方も多く、「毎日使っているから無くなる前に次を買いたい」とECで探してくださるお客様も増えています。自社ブランドで切り拓く“フェムケア”という新領域ー生協の信頼を越えて、次の市場へ40年かけて築いた「安心・安全」の信頼を土台に、ウィルミナは新たな挑戦に踏み出した。それは、女性の繊細な悩みに正面から向き合う“フェムケア”領域への進出。成熟した生協市場にとどまらず、ECを活用して自らブランドを育てるという第二の挑戦が、静かに始まっている。幸村社長:生協向けの事業は、私たちの原点であり、40年間支えてきた柱です。ただ、それだけに頼っていては成長が止まってしまう。だからこそ、自分たちの力で新しい価値をつくり、直接お客様に届ける挑戦を始めました。その代表が『イビサビューティー』という自社ブランドです。『イビサビューティー』は、女性のデリケートゾーンケアをテーマにしたフェムケアブランドです。黒ずみが気になる方向けの美白クリーム、ニオイをケアする泡ソープ、消臭スプレー、さらにはデリケートゾーンでも使える脱毛・除毛クリームなど、女性のリアルな声に応える商品を展開しています。この領域はまだプレーヤーが少なく、女性が抱える悩みが正面から語られてこなかった分野でもあります。だからこそ、生協で培った“安心・安全”の技術を活かせる場所だと感じました。同時に、ブランド事業の延長として“デジタル事業”の推進にも力を入れています。生協では紙のカタログ販売が中心で、タイミングによっては当社の商品が掲載されないこともあります。でも化粧品って、人によってなくなる時期が違いますよね。「欲しいときに買えない」という機会損失をなくすため、生協向け商品の一部をECモールで販売する取り組みを始めました。お客様にとっては便利になりますし、私たちにとってもデジタル接点を通じて新しい層にリーチできるチャンスになります。また、これまでシニア世代に特化して商品開発を行ってきた経験も、ブランドづくりに活きています。実は、シニアの方にとって「効果がある」「使いやすい」「価格が手頃」なエイジングケア商品って、意外と少ないんです。例えば、一般的な白髪染めではなく、シャンプーしながら少しずつ自然に染まっていくような商品など、“痒いところに手が届く”ような開発が得意なんです。それは長年、3,000万人もいる生協組合員の声を聞き続けてきた経験から生まれています。日本の女性の約2人に1人が50代以上ともいわれる時代。この市場はこれからますます大きくなっていきますが、今はまだプレーヤーが少ない。だから、ネット上に商品を出すだけで、思っていた以上に反響があることも多いんです。“本当に良いものを適正価格で”というウィルミナの姿勢は、時代を超えて求められていると感じます。これこそが、ウィルミナが40年以上掲げてきた「高品質を、適正価格で」という哲学の延長線上にある考え方なんです。前編では、生協という堅実な市場で40年にわたり“安心・安全”を守り抜いてきたウィルミナの歩みと、フェムケアやECといった新たな分野に挑む姿勢を伺いました。後編では、その転換期の舵を取った幸村社長の視点から、彼女がどのように企業文化を変え、フェアで風通しの良い組織をつくり上げてきたのかー経営者としての想いと、これからのウィルミナの未来に迫ります。