インタビュイー:株式会社ウィルミナ 代表取締役 幸村 潮菜 様「実力や努力がきちんと報われる、フェアな会社をつくりたい」。そう語るのは、株式会社ウィルミナ代表取締役社長・幸村潮菜氏だ。ウィルミナは、ファブレスの化粧品メーカーとして1984年に誕生し、今年で41年目を迎える。生協向け化粧品の企画・開発を基盤に、長年にわたり“安心・安全で高品質なものづくり”を追求してきた。いまやその信頼は全国3,000万人の組合員に広がり、同社は業界屈指のトップベンダーへと成長。一方で、伝統の上に安住することなく、自社ブランド『イビサビューティー』を展開し、フェムケア市場やEC領域といった新たな舞台にも挑戦を続けている。堅実な品質主義と革新的な挑戦心ー相反するようでいて、その両輪こそがウィルミナの強さの源だ。社員・派遣スタッフを含め約100名の組織となった今も、同社の根底にあるのは「安心・安全で高品質な化粧品を、適正価格で届ける」という創業以来の理念。前編では、40年以上にわたるウィルミナの歩みと、生協市場で培った信頼、そして新たな時代に挑むブランド戦略について、幸村社長に伺った。後編では、幸村社長が会社を率いることになった経緯、組織文化を変えるための取り組み、そして未来に描くビジョンについて話を聞いた。ファンドから託された“3つのミッション”ー経営再生に挑むリーダーの覚悟2021年、幸村社長はウィルミナの取締役として迎えられ、2022年、代表取締役社長に就任。彼女に託されたのは“3つのミッション”。その一つひとつが、会社の未来を決定づけるほど重いテーマだった。「何を」「どのように」変えるのかープロ経営者としての覚悟が問われた瞬間だった。幸村社長:私がウィルミナに入社したのは2021年。ファンドとの委任契約によって、経営を任される立場として参画しました。その際に明確に託されたのが、“3つのミッション”です。事業成長、組織変革、そしてIR(情報発信)の3つでした。1つ目の「事業成長」では、生協チャネルだけに頼るのではなく、デジタルチャネルを新たに構築し、 加速度的な成長を実現することが求められました。「3年後にはIPOを視野に入れる状態に」という具体的なゴールも提示されていたんです。これまで堅実に歩んできた会社にとっては、大きな発想転換が必要でした。2つ目が「組織変革」です。それまでのウィルミナは、親会社時代の文化を色濃く残した“穏やかで安定的な組織”でした。言い換えれば、「与えられたことを粛々とこなす」ことが良しとされる文化。 しかし、これからの成長には、自ら考え、行動する力が不可欠でした。「決まったことだけをやる」から「自分たちで決めて進む」へ。その意識の変革を起こすことが、最も難しく、そして最も重要なミッションだったと思います。そして3つ目が「IR」、つまり企業価値を正しく社会に伝えることです。ウィルミナは、もともと“社会的に良いことをしている会社”なのに、それを外に発信する仕組みがほとんどなかった。株主や投資家はもちろん、社員や顧客にもその価値をきちんと届けることが必要でした。良い事業をしていても、伝わらなければ企業価値は正当に評価されません。だから私は、「内にこもる会社」から「自ら語る会社」へ変えることを意識しました。さらに、委任契約の中では「3年後に到達すべき姿」も明確に示されていました。それが、『強力な販路(生協・EC)を持ち、高齢者から若年層まで幅広く支持される“女性をエンパワーする企業”(女性の憧れ、働きたい会社)』というゴールイメージでした。 この言葉を見たとき、「単なる業績目標ではなく、企業の存在意義そのものを問われている」と感じました。だから私は『経営基盤の強化とIPO推進』『事業ポートフォリオの最適化』を軸に、再構築を始めました。言葉にすればシンプルですが、実際には多くの葛藤と判断がありましたね。もともと仲の良い“家族的な組織”が、いきなり変化を求められるわけです。もちろん、ついてきてくれた人もいれば、離れていった人もいます。けれども、それは組織が“進化する過程”に必要な痛みだと思っています。会社も人も、変化の中でしか成長できない。だからこそ、私は変える責任を引き受けたつもりです。コーポレートカルチャーを変えるー“フェアな会社”をつくるために社名を変える。理念をつくり直す。その決断は、単なるブランディングの刷新ではなく、「会社の在り方」そのものを問い直す挑戦だった。ウィルミナの組織改革は、社名変更とPVMの再定義から始まった。幸村社長:入社2年目に、社名を『ウィルミナ』へ変更し、PVMも全面的に刷新しました。以前の社名は『かがやくコスメ』というもので、資本構成の変更に伴い、急ぎで決められたものでした。社員にアンケートを取っても「愛着がある」と答える人はほとんどいなかったんです。しかも、社名変更が社内に説明された際の配布資料では、“かがやく”が赤字、“コスメ”が黄色のポップ体。衝撃を受けた社員も多かったと聞きました。そこで、ファンド側の協力も得て「社員が本当に誇れる社名とは何か」を一から議論しました。外部のコンサルに任せるのではなく、社内のキーマンたちと一緒に自分たちの言葉でPVMをつくり上げたんです。これまで大切にしてきた価値観や行動を一つひとつキーワードにして整理し、それをストーリーとして落とし込んでいきました。だからこそ、社員にとっても“自分たちの会社を自分たちで再定義した”という実感があると思います。組織を変えるうえで象徴的だったのは、「見えない固定観念」に気づいた瞬間でした。私が入社した当時、役職者はほぼ全員が男性で、女性は一人だけ。しかも、その女性の名前だけが組織図で赤字になっていたんです。男性は黒字、女性は赤字。私はそれを見た瞬間、強い違和感を覚えました。「性別で色を分けるなんて、もう時代じゃない」と。そこから、性別に関係なく実力を正当に評価する“フェアな会社”をつくることを明確な方針に据えました。それは女性を優遇するという意味ではなく、あくまで“同じ基準で評価される環境”を整えるということ。結果として、当時唯一の女性管理職だった社員は、今では取締役として活躍しています。私自身、これまでのキャリアの中でフェアでは無い扱いを受けることが何度もありました。努力して成果を出しても、ポジションを得るのは別の人だった。そういう不条理を目の当たりにして、何度も悔し涙を流した経験があります。だからこそ、私は「頑張っている人が報われる」会社をつくりたい。能力がある人に正当にチャンスが与えられないことが、一番かわいそうだと思うんです。ただし、フェアであるというのは、決して“優しい”ということではありません。むしろ、評価の基準を明確にし、チャンスを等しく与え、結果に責任を持つという“厳しさ”を伴うものです。努力や実力を正当に評価するというのは、同時に結果に対しても真摯であるということ。私はその覚悟をもって、組織づくりに向き合っています。この価値観を育ててくれたのは、父の存在も大きいです。父は経営者で、自分の哲学に従って仕事をしていました。私が意思決定に迷うと、いつも相談に乗ってくれて、最後に必ず「がんばれ潮菜」と手紙をくれたんです。その言葉が、今も私の背中を押しています。フェアネスを貫くことは簡単ではありませんが、私にとっては“経営の原点”なんです。収益性の強化とグローバル展開へー“フェアな組織”から世界へ広がるウィルミナの挑戦組織改革と事業成長を両輪で進めてきたウィルミナ。次に幸村社長が見据えるのは、既存の強みを礎にしながらも、新たな事業と人材の力で成長を加速させること。その先にあるのは、“高収益かつグローバルに通用する化粧品メーカー”という未来だ。幸村社長:これからは、生協事業を収益の柱としつつ、自分たちの手で新しい事業を立ち上げ、収益の拡大を進めていきます。すでにM&Aで会社を買収した実績もありますし、今は3つ目、4つ目の新規事業を生み出すプロジェクトが動き始めています。経営のKPIとして重視しているのは「従業員一人ひとりの収益性」です。人をいたずらに増やすのではなく、既存メンバーの生産性を上げる仕組みを整えています。例えば、今年は全社員にAIを活用した業務効率化の研修を導入しました。日々の業務改善の積み重ねが、結果的に高い給与水準や利益率につながるーそういう循環をつくりたいんです。PVMの浸透については、まだ道半ばです。ただ、PVMに共感して入社してくれる人が確実に増え、採用力は以前よりも格段に上がりました。もちろん、変化に馴染めず離れていく人もいますが、成長の過程で避けて通れない部分でもあります。大切なのは、「変わりたい人」も「現状を大切にしたい人」も、それぞれが力を発揮できる仕組みをつくること。だから私は、人事制度をフェアに機能させることを常に意識しています。ウィルミナには、かつて大企業の子会社だった時代に培われた“働きやすさ”があります。その良さを残しながらも、フェアにチャンスが巡る組織へ少しずつ進化させているところです。最近では、アワード受賞や業界内でのオファーも増え、成果としても形になりつつあります。最終的には、高収益でグローバルに展開できる化粧品メーカーを目指しています。その未来を、社員一人ひとりと一緒に切り開いていきたいーそれが、私の次のミッションです。インタビュー後記取材を通して印象的だったのは、幸村社長の語る“フェアネス”が単なる理念ではなく、経営の軸として実装されていることだった。社名変更やPVM刷新といった外形的な改革の裏には、「努力が報われ、実力が正当に評価される環境をつくる」という強い意志が通っている。フェアであることは、優しさではなく覚悟だ。評価の基準を明確にし、チャンスを等しく与え、結果に責任を持つこと。その姿勢こそが、ウィルミナを「人の成長が会社を強くする組織」へと変えつつある。静かな語り口の奥には、“人を信じる経営”への揺るぎない信念があった。父から贈られた「がんばれ潮菜」という言葉を胸に、幸村社長は今日もフェアな未来を描く。その灯は、数字では測れない企業の価値と、人が輝く社会の可能性を静かに照らしている。