インタビュイー:株式会社ユアサ 代表取締役社長 湯浅賢治様株式会社ユアサは、1925年(大正14年)の創業以来、100年以上にわたり「衛生用紙」を通じて地域の暮らしを支え続けてきた紙の卸売企業である。トイレットペーパーなどの日用消耗品を中心に、関西の量販店への安定供給を担っている。その一方で、自社ECサイトを通じたネット販売を加速させており、全国の一般消費者や企業へ直接商品を届けるダイレクトな流通体制を構築している老舗企業である。創業者が「紙の普及こそが人々の生活を豊かにする」と信じた時代から、その志は一貫して受け継がれてきた。現在は、四代目の代表取締役社長・湯浅賢治氏のもと、伝統的な卸売業の枠を超えた大胆な業態変革を推進している。自社ECサイト「湯浅紙店」の運営をはじめ、全国の物流拠点をネットワーク化し最適地から発送する独自の供給網を構築している。さらに、自社の業務効率化から生まれたノウハウを外販する「バックオフィスDX支援サービス」の展開など、時代の変化を先取りした多角的な事業運営を見せている。湯浅氏が目指しているのは、「蛇口をひねれば水が出るように、誰もが当たり前に紙を手に取れる日常」を、物流とテクノロジーの力で次の時代へとつないでいくことだ。前編では、株式会社ユアサ 代表取締役社長 湯浅賢治氏に、創業の物語やEC事業への転換、独自のDX戦略について、お話を伺った。創業100年の重みと「変えないために、変える」という決意100年を超える同社の歴史は、日本の生活文化が衛生的で豊かになっていく変遷そのものである。創業当時から続く「紙」への想いと、時代に合わせた業態転換の軌跡について、お話を伺った。湯浅社長:株式会社ユアサは、創業した時から一貫して「衛生用紙」というカテゴリーの商材を扱ってきました。私たちが普段目にするもので言うと、ティッシュペーパーやトイレットペーパーといった日常的に使う紙が該当します。元々、私の曾祖父にあたる創業者が事業をスタートさせたのは、今から約100年前のことです。当時はまだ紙が貴重品だった時代で、トイレに行っても紙で拭くという文化自体がまだ十分に根付いていませんでした。当然、現在のようなトイレットペーパーも存在せず、「ちり紙」のようなものを扱うところからスタートしました。その当時、創業者は「この紙を一般家庭に普及させることが、人々の生活を豊かにすることに繋がる」という志を持っていました。その志を実現するために、関西エリアに広く紙を届けられる仕組みとして、ちり紙の小売りから商売を始めました。当時は襖紙や障子紙といったものも扱っていましたが、それらは当時からすでに右肩下がりになるという予測がありました。そこで、今後このカテゴリーの中で伸びていくであろうと考えたのがティッシュペーパーやトイレットペーパーだったのです。その後、日本が高度経済成長期を迎え、紙の普及が加速する時代の潮流に合わせ、私たちは小売業から卸売業へと業態を転換しました。関西の量販店への安定供給を主軸に据え、それは今もなお、事業の中心として続いています。しかし現在、トイレットペーパーなどを店頭で買うという生活習慣そのものが変わりつつあります。ECの普及により、人々のライフスタイルは一変しました。こうした時代の変化を受け、私は事業を承継して以来、EC事業への本格的な注力を進めてまいりました。既存の卸売業に次ぐ「第二の柱」として、EC事業をしっかりと確立させたいと考えています。創業者が「ちり紙」の普及に力を尽くしたように、現代に最適な形で紙を届ける仕組みを再構築すること。それこそが、今の私の役割だと確信しています。DXは「違和感」から始まる。FAXとスマホの隙間に落ちていたチャンス異業種から家業に戻った湯浅社長が感じたのは、日常の利便性と法人取引の現場にある巨大なギャップだった。アナログな商習慣をデジタルで打破しようとした挑戦の始まりを追う。湯浅社長: 卸売業とは別の新しい事業を模索した際、最初からECを目指していたわけではありませんでした。最初は、自分たちで企業に直接商品を販売する「直販」という事業を考えたんです。そこで、実際に営業活動を行ってみて分かったのは、法人取引の現場には想像以上にアナログな商習慣が残っているということでした。注文はFAXが基本で、配送には受領印も必要です。プライベートではネットで買い物をするのが当たり前の時代になっているにもかかわらず、仕事の現場ではその利便性がほとんど活用されていませんでした。私はその大きなギャップに強い違和感を覚え、「これをもっと便利にできれば、必ず喜んでもらえるはずだ」と考えたのです。そこで、企業に直販するという方向性は変えずに、その手段としてECを通した形に変えていくことにしました。ネットで注文すれば、数日後には商品が届く仕組みです。これまで「会社へ卸す」立場だった私たちが、お客様へ「直接お届けする」形へと、ビジネスのあり方を転換しました。この方針転換に合わせ、社内体制も刷新しました。かつては6名の営業職を擁する体制でしたが、ECへのシフトに伴い、現在は3名体制へと再編しました。これは単なる人員削減ではなく、役割の転換です。足で稼ぐ「従来型の営業」に代わり、デジタルを駆使してお客様との接点を増やす仕組みづくりに力を注ぐことにしました。具体的には、Web広告を出したり、ネット検索で引っかかりやすくしたりといったマーケティングに注力しています。知名度のあるAmazonや楽天であれば、皆さんは怪しまずに会員登録して買うと思いますが、聞いたこともない「湯浅紙店」というサイトが出てきたら「なんだこれ?」となります。であれば、サイトに来てくれた人たちが、「ここなら大丈夫そうだ」と安心してもらえるようにするためにはどうすればいいか。それを考え続けた結果、ホームページを整え、情報を積極的に発信し続ける今のスタイルにたどり着きました。最初は一歩踏み出すこと自体が大変でしたが、今ではこうした発信が、お客様からの問い合わせや採用面でのブランディングにもしっかりと繋がっていると感じています。仕入れ・物流・事務を再定義。消耗品ECの競争力を支える「三つのコスト戦略」価格競争の激しい消耗品市場でいかに利益を確保するか。湯浅社長はコストを三つの要素に分解し、自社で試行錯誤したノウハウを新たなサービスへと昇華させた。湯浅社長:EC事業を始めて分かったのは、ただサイトを作れば事業が伸びるわけではない、ということでした。どうすればトイレットペーパーを買ってもらえるのか分析していくと、結局のところ、購入理由の多くは「価格」に落ち着くことが分かりました。「いかに安く届けるか」ということが、このビジネスの肝なのです。そこで、どうすれば安くお客様に届けられるのかを追求するために、かかるコストを大きく三つに分解して考えました。一つ目は「商品原価」。二つ目はそれを運ぶ「物流費」。そして三つ目が、手続きをするための「事務処理費」です。一つ目の商品原価については、私たちは元々卸売をやっているので商品を大量に購入しています。そのため、かなり安く仕入れることができる強みがありました。しかしながら、問題は残りの二つでした。物流費については、どうしても運送会社の費用がかかります。そこで考えたのが、「お届け先の近くから出荷すれば安くなる」というシンプルな方法でした。現在は全国のパートナー企業の倉庫から発送するネットワークを構築し、配送距離を短縮することで、コストを抑えることができます。三つ目の事務処理費については、卸売と異なり一件ごとの配送となるECでは、処理に手間をかけると利益が出ません。そのため、受注から出荷までの工程を徹底的に自動化することにしました。具体的には、注文を基幹システムへ自動で取り込み、最適な出荷拠点の選別から発注、伝票発行までが連動して完結する仕組みを突き詰めています。こうした取り組みをいろいろな方にお話しすると興味をお寄せいただき、「仕組みを参考にしたい」という声をいただくようになりました。そこで、DXを推進し続けることで、「私たちの培ったノウハウが業界の課題解決に貢献できるのでは」という想いから、『DX支援サービス』の立ち上げに至りました。私たちのDXは、自分たちが利用者として「より便利に、より安く」を追求し、本気で実現してきたものばかりです。自ら試行錯誤を重ねたからこそ、DXに悩む企業様に自信をもってご案内ができます。今はAIの普及により、既存の仕組みを一から見直すべき変化の時です。私たちが試行錯誤を重ね続けることで、業界全体の発展や、日用消耗品だからこその製品の安定供給に寄与したいと考えています。前編では、創業の歴史やEC事業への転換、そして自社の効率化から生まれたDX支援について、お話を伺いました。後編では、現状維持の社風を打破した組織変革や2030年に向けた未来へのビジョンについて、お話を伺っていきます。湯浅賢治/1981年生まれ。NEC(日本電気株式会社)にて金融機関向けシステムの営業、クラウドサービスの立ち上げなどを担当。その後、株式会社マザーハウスにてジュエリー事業を立ち上げ、販売責任者に就任。2019年株式会社ユアサに入社。2024年5月代表取締役社長に就任。【会社概要】会社名株式会社ユアサ設立年1950年代表取締役社長湯浅賢治事業内容日用消耗品の卸売事業EC・業務用販売事業家庭紙配送事業商品加工とオリジナル商品の企画販売事業クラウドベースDX支援サービス事業所在地兵庫県西宮市田中町4-10-2サイトURLhttps://www.e-yuasa.co.jp/