インタビュイー:ESS株式会社 代表取締役 坪井里奈様第3次ブームとも言われるピラティス市場。そのなかで、完全個室・住宅街立地・子連れでも通いやすい環境を備え、「理想のスタジオ」を日常の選択肢へと変えてきたのが、ESS(エス)株式会社が展開するパーソナルマシンピラティススタジオYUZUである。心と身体に向き合う時間を、無理なく継続できるものとして生活の中に根づかせようとしている。同社を率いるのが、代表取締役の坪井里奈氏だ。YUZUの出発点には、産後の葛藤や働き方への違和感、そして消費者として感じた「ピラティスの通いにくさ」があった。子どもを預けながら働く意味を問い直した会社員時代、独立後に直面した新たな壁、そしてマシンピラティスとの出会い。そうした一つひとつの経験が重なり、「こんな場所があったらいいのに」という想いが事業へと形を変えていった。前編では、ESS株式会社 代表取締役 坪井里奈氏に、ESS株式会社が目指すピラティスのあり方や坪井代表の産後の葛藤から始まった独立の原点、消費者としての違和感から生まれたYUZUの誕生について、お話を伺った。“マシンピラティスを生活の一部に”ーESSが再設計したピラティスの形はじめに、ESS株式会社が展開する事業の全体像について、お話を伺った。坪井代表:ESS株式会社では、「マシンピラティスを生活の一部に」というコンセプトのもと、大きく分けて二つの事業を展開しています。一つが、完全個室のパーソナル型マシンピラティススタジオ「YUZU」の運営。もう一つが、インストラクターの養成を行うアカデミー「YUZU ACADEMY」の運営です。YUZUを立ち上げた背景には、「ピラティスは続けてこそ意味があるのに、続けられない人が多い」という課題意識がありました。ピラティスは継続することで、身体や心に変化が現れるものです。しかし、多くの方が途中でやめてしまう現実に違和感を持っていました。理由を分解していくと、共通するハードルが見えてきます。価格が高いこと、人目が気になること、子どもを連れて通えないこと、そして生活圏から遠いことです。こうした要素が重なることで、「続けること」が難しくなっていると感じました。だからこそYUZUでは、これらのハードルを徹底的に取り除く設計にしています。完全個室のパーソナル形式にすることで、人目を気にせず自分のペースで取り組める環境を整えました。子ども連れでも通えるようにし、これまで通えなかった方にも選択肢を広げています。立地をあえて住宅街に絞り、内装もゆったり落ち着けるおうちのような空間を提供することで、「わざわざ行く場所」ではなく「生活の延長線上にある場所」にしています。価格についても同様に、長く続けることを前提に無理のない水準にしています。ピラティスを特別なものではなく、歯医者や美容室のように当たり前に通うものにしたいと考えています。もう一つの柱であるアカデミー事業も、同じ思想のもとにあります。ネバダ州立大学公認のDKピラティスと連携し、「YUZU ACADEMY」を運営しています。質の高いインストラクターを育成し、そのまま現場で活躍できる環境までつなげることで、持続的に事業を成長させています。私たちが目指しているのは、ピラティスを「誰にとっても当たり前の選択肢」にすることです。そのために必要なことを積み重ねた結果が、今のESSの形になっています。子どもに胸を張れる働き方を求めてー産後の葛藤が独立の原点になった会社員としてキャリアを重ねるなかで、坪井代表は一度、仕事との向き合い方を大きく問い直す局面に立たされた。出産と復職を経て感じた違和感こそが、のちの独立へとつながる原点であった。坪井代表:私は大学卒業後に楽天へ入社し、その後はアパレル企業の通販担当や、SNSマーケティング会社でのディレクター業務など、主にWeb領域の仕事に携わってきました。20代は昼夜も土日も関係なく仕事に没頭しており、企業のブランドを育てる毎日に大きなやりがいを感じていました。ただ、2018年の第一子の出産を機に、働き方との向き合い方は大きく変わりました。産休・育休を経て復職はしたものの、出産前のように昼夜や土日に関係なく動く働き方を続けることは難しく、同じ会社の中でバックオフィス部門へ異動することになりました。もちろん会社として配慮していただいた結果ではありましたが、変化の激しいウェブの世界で走り続けてきた私にとって、その毎日は以前の仕事とのギャップが大きく、どこかもどかしさを覚えるものでした。会社で時計を見ては「まだ3時か……」と思うほど、時間が過ぎるのを遅く感じる日々だったのです。子どもを保育園に預けて働いているのに、自分は何をしているんだろう、と何度も思いました。忙しくて大変でも、納得感のある仕事に向き合えているならまだ胸を張れたと思うんです。しかし当時の私は、「ママは仕事を頑張っているから、保育園で頑張ってね」と心から言える状態ではありませんでした。そこで、自分の働き方を変えようと決めました。もともと小さい頃から顔の大きさにコンプレックスがあって、自分自身が小顔サロンに通っていたのですが、そこで民間資格を取れることを知り、「同じ悩みを持つ人に自分も提供したい」と思いました。会社を辞めて資格を取得し、セラピストとして独立しました。ただ、独立すればすべて解決するわけではありませんでした。子どもとの時間を取りたいと思って始めたはずなのに、今度は自分が365日働くような状態になってしまったんです。だからこそ、自分一人が動き続ける働き方ではなく、仕組みとして事業をつくっていくこと、仲間と一緒に組織として成長していくことの大切さを、その時期に強く実感しました。そこで初めて法人化して、エステ事業を5年ほど続けてきました。消費者として感じた不便が、YUZUの原点になった。独立後、エステ事業を軌道に乗せていた坪井代表が次に出会ったのが、マシンピラティスであった。そこで感じたマシンピラティスの可能性と、消費者として感じた不便さ。その両方が重なったとき、YUZUの構想が立ち上がっていく。坪井代表:エステ事業を始めてから、子育てと仕事の両立のなかで、自分のことはどうしても後回しになっていました。心と身体が不安定な状態で毎日を過ごしていたんです。そんなとき、エステのお客様から「最近マシンピラティスが流行っているらしいですよ」と教えていただきました。お客様が知っていることを自分が知らないのはよくないなと思い、まずは体験に行ってみたのが最初のきっかけでした。実際にレッスンを受けたときの感覚は、とても衝撃的でした。私はもともと運動が本当に苦手で、ジムに入会しては通わなくなるということを何度も繰り返してきたタイプです。運動が嫌いだった理由も、「疲れる」「頑張らなければいけない」「筋肉痛になる」というものでした。ところが、マシンピラティスは私の中にあった“運動”のイメージとはまったく違っていました。無理に頑張るものではなく、心をリセットするための時間のように感じられて、「また来たい」と人生で初めて思えたんです。その一方で、続けたいと思ったからこそ見えてきた現実もありました。当時のパーソナルのマシンピラティスは、1回あたり1万円台前半が相場で、月4回通えば5万円近くになる。長く続けるには、決して気軽な金額ではありませんでした。加えて当時は、大勢がレッスンを受けている空間の一角でレッスンを受ける形式も少なくありませんでした。人目も気になりますし、集中しにくい。さらに、私にとっては子どもを預けて通うこと自体のハードルも高く、「子どもを連れて行ける場所があればいいのに」と感じていました。そこで気づいたのは、ピラティスそのものではなく、続けにくい構造の方に課題があるということでした。身体にも心にもいいものなのに、価格や環境、立地の問題によって、続けたい人が続けられない。だったら、そのハードルを取り除いた場所を自分でつくればいい。完全個室で、人目を気にせず、子どもも一緒に来られる。しかも、生活圏のなかで無理なく続けられる。そうした「あったらいいな」を形にしたものが、YUZUの原型でした。振り返ると、YUZUは市場調査の結果から生まれた事業というより、生活者として感じた切実な不便さから始まった事業だったと思います。私自身が「こんな場所があったら通い続けられたのに」と思ったことを、そのまま形にしていった結果が、今のYUZUなんです。前編では、ESS株式会社が目指すピラティスのあり方や坪井代表の産後の葛藤から始まった独立の原点、消費者としての違和感から生まれたYUZUの誕生について、お話を伺いました。後編では、YUZUを広げてきた出店戦略や組織運営を見直すきっかけとなった引き抜き事件、ピラティスの本質と働く人の未来を見据えた今後の展望について、お話を伺いました。坪井里奈/上智大学卒業後、楽天や広告代理店にて店舗開発営業やSNSディレクターとしてキャリアを積む。第一子の出産を機に、仕事と育児の両立に悩み独立を決意。フリーランスを経て、エステサロンを立ち上げ約5年間経営。自身が産後の不調時に救われた経験からマシンピラティスに着目するも、「高価格」「子連れで通える環境がない」という実体験から、2021年9月にパーソナルマシンピラティススタジオ「YUZU」を創業。現在は2児の母として育児と経営を両立しながら、全国約75店舗を展開。「マシンピラティスを生活の一部に」をコンセプトに、女性がライフステージの変化を迎えても自分らしく輝ける社会を目指している。【会社概要】会社名ESS株式会社創業年2021年9月代表取締役坪井里奈所在地東京都品川区東五反田1丁目10−10 オフィスT&U 5階サイトURLhttps://yuzu-pilates.com/