インタビュイー:ミラーフィット株式会社 代表取締役 黄皓 様2020年に設立されたミラーフィット株式会社は、「鏡に写る自分をもっと好きに。その“偶然”を、“必然”に。」をビジョンに掲げるヘルステック企業だ。3,000年間ほとんど姿を変えなかった“鏡”に新たな価値を与え、フィットネス業界に革新をもたらしている。テクノロジーを駆使し、誰もが公平に健康へアクセスできる社会をつくる。タッチパネル式スマートミラー『MIRROR FIT.』を軸に、人々の生活に“自分を好きになる”習慣を根付かせようとしている。その独創的なビジネスモデルの背景には、黄代表自身のユニークなバックグラウンドと、そこから育まれた経営哲学がある。商社時代に抱いた組織への問題意識、そして競争社会を生き抜く中で磨かれた独自の戦略思考。その源泉は、彼自身の半生を紐解くことで浮かび上がってくる。後編では、黄代表を形作った原体験やキャリア戦略、そしてミラーフィットが仕掛ける“日本の常識を覆す”未来の事業展開について語ってもらった。成果と報酬の公平性。起業の根底にある、商社時代からの問題意識ミラーフィットのユニークな事業は、代表自身の経験から生まれている。圧倒的な人口の中で機会を掴み取らなければならなかった環境、そして三菱商事で感じた「成果と報酬の不均衡」。これらの経験が、自らリスクを取り、公平な仕組みで挑戦したいという起業の意志を育んだ。黄代表:私のアイデンティティに影響を与えたのは、中国で育った環境と起業家だった父親です。日本では和を重んじる謙虚さが美徳とされますが、それは国全体が豊かだからこそ成立する文化とも言えます。私が育った環境は、15億人という圧倒的な人口の中で、自ら手を挙げ、声を上げなければ、チャンスを得られないばかりか、誰にも気づいてもらえない場所でした。60人のクラス全員が「私を当てて!」と机をドンドンと肘で叩いてアピールするような環境でしたから、人前に出て自分を表現することはごく自然に身につきましたね。そうした環境に加え、もう一つ大きかったのが、幅広く事業を手がけていた起業家の父の存在です。成功と失敗を繰り返していた父ですが、めげている姿を見たことがありません。事業内容については理解できない部分もあり、子ども心に「何をやってるんだろう?」と思うこともありましたが本人はいたって楽しそうでした。そんな父の姿を目にしていた私は、自分がサラリーマンとして過ごすイメージは元来、あまり持ち合わせていなかったかもしれません。大学卒業後は三菱商事に入社しましたが、これも「将来の起業」が前提でした。正直、自分の能力に自信が持てなかったこともあり、一度は“ビジネスのトップが集まる場所”で実力を試してみようと思ったのです。実際に働いてみると、大きな成果を出しても、評価や報酬の仕組みは皆とあまり変わらない、という大企業ならではの現実がありました。もちろん、自分が出した成果も、会社の看板があってこその成果だったと感じます。ただ、自分の働きがより正当に評価される、フェアな環境で挑戦したい、という気持ちが徐々に芽生えてきました。リスクもリターンも全部自分に返ってくる。そんな世界で挑戦したいという気持ちが、独立への思いを強くしました。「第一想起」を制する。事業をスケールさせるための逆算思考のブランディング事業の成功には、プロダクトの良さだけでなく「知られる努力」も重要だ。黄代表は広告費に頼らず自身の認知度を高めることで、事業拡大の活路を見出した。その根底には、「〇〇といえばこの人」という第一想起を確立する戦略があったという。黄代表:ちょうど独立への思いを強くしていた頃、自身の体型の変化や家族の健康問題が重なってしまいました。こうした課題と向き合う中で、ごく自然と「ダイエット」と「健康」という領域に、自分自身のリアルな課題として関心が向かっていったんです。もちろん、大手商社からの転身でしたから、周囲からは驚きの声や、時に厳しい見方をされることもありました。ただ、私にはこの個人的な体験こそが事業の核になるという確信と、明確な戦略が見えていました。その戦略の第一歩は、まず「私という人間」を知ってもらうことだったのです。そこで独立当初、自分を一言で紹介できる状態を作ることに専念しました。要は「フィットネスといえば黄皓」「ダイエットといえば黄皓」という、第一想起を取る戦略です。当時出演した恋愛リアリティ番組もその一環で、自分という存在の拡散性を上げようと意識しました。私自身のパーソナルブランディングを強化することが、事業の認知度を高める戦略だと。さまざまな知名度の高いメディアコンテンツへの出演も、その文脈での判断でした。これは、事業の「顔」としての私を知っていただくことで、広告費ゼロでも世の中への拡散性を最大化できるチャンスだと思いました。この「第一想起」が取れていると、多種多様なビジネスチャンスが舞い込みます。例えばデベロッパーがマンションにジムを作りたいと考えたとき、「フィットネスに詳しいのは誰だっけ? あ、黄だ」となれば、声がかかる。常に「これといえばこの人」という状態を意識的に作っておくことが、事業をスケールさせる上で何よりも重要だと考えています。明確な戦略も描けていましたから、起業への恐怖心はほとんどありませんでしたね。それは、自分の中で「失敗の定義」が少し違っていたからかもしれません。たとえ事業がうまくいかなくても、その挑戦から得られる経験は、何もしないでいるよりはるかに価値があると。そう思えば、本質的な意味で失うものはない、そんな気持ちでスタートしました。代表自身がリスクを恐れず挑戦する姿勢を持つミラーフィット。そこには、どのような考えを持つ人材が集まっているのだろうか。黄代表:私たちの採用基準は、非常にシンプルです。それは、会社と個人の目的がフェアに合致しているかどうか。だから、私は面接で必ずこう聞いています。「会社として、あなたにはこの部分で貢献してほしい。では、反対にあなたは何がほしいですか?」と。もちろん、会社の知名度が上がるにつれて、私個人に興味を持って「黄さんと働きたい」と言ってくれる方も増えました。それは大変ありがたいことですが、私たちはそうした方にも必ず「なぜミラーフィットで在りたいのか?」と問いかけます。個人のスキルや経験と、会社が目指す方向性。そして、個人が会社に求めるものと、会社が個人に提供できるもの。その両方が満たされて初めて、良い関係が築けると信じているからです。雇用関係というと上下があるように見えますが、私は社長という役割を、社員はそれぞれの専門分野の役割を担っているだけで、立場は対等です。そのくらいフェアな関係でなければ、良い仕事はできないと考えています。フィットネスの空白地帯へ。地方女性の「隠れたペイン」を解消する次の一手現在、ミラーフィットが総力を挙げて取り組むのが女性専用サロン『HITORI WELLNESS』(ヒトリウェルネス)のフランチャイズ展開だ。最大の特徴は「都心に出店しない」という戦略。日本の運動参加人口の大多数を占める未参加者にアプローチするため、あえて地方の“隠れたペイン”を狙う。黄代表:会社の最終ゴールである「一家に一台」という壮大なビジョンは、今もまったく変わっていません。しかし、そのゴールへ至る山の登り方は、一つではない。むしろ、この『HITORI WELLNESS』(ヒトリウェルネス)事業こそが、「健康の民主化」という私たちの想いを、最も早く、広く実現する道だと考えています。なぜなら、日本の運動参加率は約3%。フィットネスジムが集中する都心部は、いわばこの3%の層による限られたパイの奪い合いです。しかし、我々が本当にアプローチしたいのは、残りの97%の方々。そのためには、彼らが住む場所に我々から出向かなければならない。これまでフィットネスジムの出店が難しかった、いわば“フィットネスサービスの空白地帯”にこそ、我々が本当に届けたい価値があるんです。そこで、“フィットネスと美容をボーダレスに。”をコアコンセプトに、新しくトライしたい運動や最新美容を同じ場所で体験できる、女性専用の「サードプレイスサロン」として『HITORI WELLNESS』の展開をスタートしました。ターゲットは30〜50歳の女性。特に地方では、子育てや家事で自分の時間がなく、ストレスを抱えている女性が非常に多い。私自身、最近子どもが生まれて、その大変さを痛感しました。その答えが、誰の目も気にすることなく、自分だけの時間を過ごせる完全個室の空間が『HITORI WELLNESS』なんです。誰にも邪魔されず、心ゆくまで自分をケアできる特別な時間と空間。このユニークな価値提供は、実際にユーザーにどのように受け入れられているのだろうか。黄代表:全身を映す大きなスマートミラーでヨガや筋トレに励む一方、テーブルに置かれた美容ミラーでは、プロの指導によるスキンケアやヘアメイクのコンテンツを体験できます。月額1万円ほどで、運動はもちろん、高機能シャワーヘッドやヘアアイロンなどで知られるリファ(ReFa)を始めとする数種類の高級美顔器や、髪質改善トリートメント、よもぎ蒸しまで、トータルで使い放題です。だから、誰にも会う予定を立てず、メイクもしない「すっぴん」のまま車で来て、思う存分自分をケアして、また「すっぴん」のまま家に帰る。誰かのためではなく、純粋に自分のためだけの外出になるのです。この圧倒的な価値と気軽さが、お客様の心を掴んでいます。ジム通いへの「不安」ではなく、自分磨きへの「楽しみ」がモチベーションだからこそ、会員様の8割が2年契約という形で、長くサービスを愛してくださる。この事業モデルでなら、日本の地方から、一人ひとりが「自分を好きになる」きっかけを、着実に広げていける。その確信があります。そして最終的には一人でも多くの人に、鏡に映る自分を好きになってもらう。そのきっかけを、私たちは日本の隅々まで届けていきます。インタビュー後記今回の取材を通して感じたのは、黄代表の経営者としてのバランス感覚の高さと総合力の高さでした。ご自身の経験からくる公平性への強いこだわりや、競争環境で培われた選ばれるためのしたたかな戦略。それらを冷静に分析し、事業に落とし込むロジカルな思考が印象的でした。一方で、その根底には「自分を好きになる人を増やしたい」という、人間的で温かさと実行する情熱が垣間見えました。日常のツールである“鏡”に、誰もが見過ごしていた可能性を見出した着眼点。そして、日本のフィットネス業界がこれまで目を向けてこなかった地方の女性が抱える「ペイン」に光を当て、全く新しい市場を創造しようとする挑戦。そのすべてが、ロジックと情熱という両輪によって、力強く推進されているのだと感じました。“健康の民主化”という壮大な想いが、ミラーフィットという革新的なテクノロジーと、黄代表ならではの逆算思考によって、今後どのように日本の景色を変えていくのか。それは、一人ひとりが鏡に映る自分を、もっと好きになれる社会なのかもしれないと、強く感じた取材でした。